第61話氷の女王と夏休み最終日の前日

家族旅行が終わってはや2週間。今日は8月30日夏休みの最終日の前日だ。

そして長い、長い夏休みの終わりだというのに今日もダラダラリビングで転がっている物が2人。


「雫、夏休み最後だぞ」

「ええ、そうね」

「なんか……ないのか」

「そうね、強いて言うなら暑い、暇、黒兎ちょっとアイス買ってきて、かしら」

「結構言うことあったし、最後の余計だしこんな会話夏休みの始めにもした気がするんだが」

「気のせいよ。読者もきっと忘れてるわ」

「はいはい、読者とか言っちゃダメですよー」

「メッね」

「今のメッってやつ可愛かったぞ」

「それはどうも」


今日も今日とてだべるだけで過ごす雫と黒兎。

家族旅行の件から少し2人の距離は近づき、気づけば『可愛い』や『かっこいい』なんて言葉を相手に向かって言えるほどに、2人は近くなっていた。


そんな少し近づいた2人の携帯が同時に鳴る。


確認すると咲良からのメッセージだった。


──明日は聡の誕生日だから今日皆で集まって誕生日パーティーしない?明日は……私と聡の2人にして欲しくて……


というメッセージだった。


「黒兎?見たかしら?」

「ああ、見た見た。ちっ、リア充しやがってって感じだな」

「同意するわ」


お前らもな!っとツッコミを入れてやりたいが、2人の感覚は家族。彼氏彼女というより兄弟のような感じなのだ。


「それより今日パーティー行くか?」

「せっかく招待してくれたのだから行きましょうよ。それにあなたの親友でしょ?」

「それもそーだな」


とりあえずはパーティーに参加することを咲良に伝えると、『ほんと!?良かったー。きっと聡もよろこんでくれるはずっ!』とのことだ。

その後は夜7時に黒兎の家に集合となった。


理由は、黒兎の家じゃないと6人も入らないということと、晩ご飯は黒兎が作ることにした。


6人というのはもちろん、陽と優心もパーティーに来るからである。

ケーキは陽と優心が買ってきてくれると言っていた。咲良は上手い感じに聡にサプライズを成功させるために色々やっているらしい。

ほんとに彼氏思いのいい彼女だ。

爆ぜろ。


ということで会場が黒兎の家と決まった瞬間に始まることがある。

それは……掃除である。


「おい、雫!なんでここ数日掃除サボってやがった!」

「なっ!そんなことよりあなたもココ最近料理はスーパーのお惣菜ばっかりだったのに今日いきなり、人様にたべさせる料理なんて作れるのかしら?」

「っ!うるせぇ!掃除だ掃除!その後買い出し行くぞ!」


夏休み。それも終わりかけの。

1番何をするのも面倒くさくなるこの時期。

黒兎は料理を雫は掃除をサボって一日中惰眠を謳歌していた。

それのつけが来たのか、いつもなら少し掃除するだけでピカピカの家も今日は本格的に掃除しないと人様をあげることの出来ないほどに酷い有様だった。


そして掃除だけでなくこちらも同じ。


「あれ?調味料切れてるし……」


料理をサボっていたつけがこちらにも来ていた。いつもなら調味料のストックくらい常にあるのだが、買い出しすらサボり、近くのスーパーでお惣菜を買うだけの生活をしていたため、台所にあるはずのものが無くなっていたり色々足りないものがあった。


雫も黒兎も家を片付けていく。そして2時間ほど。時刻は午後3時。


「終わったー」

「まだよ。買い出し」

「だな、まだ準備あるし急ぐか」


掃除は終わった。だが、まだ買い出しが残っている。

急いで着替え、家を出る……時は別々で。

もちろん一応の警戒である。2人の関係は表向きはただの友達。同居なんてバレればそれはもう、めんどくさい事が目に見えているので、雫は変装をしたり色々と2人の外出は面倒なのだ。


そして2人で外出するには理由がある。

それは聡の誕生日プレゼントを選ぶためである。


そんな2人は家から少し離れたところでなんともまあ、白々しくたまたまを装い合流する。

これも保険である。


さらに2人は一定の距離を開けながら、


「月影くん」

「冬矢」


と呼び方を戻している。この際、呼び捨てだったり君付けは、夏休みや、遊んでいると自然にとさえいえば何も怪しくない。

ただ、さすがに『黒兎』『雫』ではなんだか馴れ馴れしいので、外では『月影くん』『冬矢』と呼ぶことにしている。

これも保険。


もう、バレることより、お前らの方がめんどくせぇと言いたいほどめんどくさい事にならない為、めんどくさい事をする2人である。


少し離れた商店街に着くと、黒兎は今日のメニューを考える。


今考えているのは、パーティーと言うこともあって、ローストビーフや、スープ、チーズフォンデュなどの洋風なものだ。


「チーズフォンデュなんてどうだ?それにローストビーフとか、ミネストローネなんかなら作れるぞ」

「いいわね。なんか手のこった、オシャレでそういうの好きよ」

「だな。それでいこうか」


黒兎は材料をかう。チーズフォンデュはチーズとウィンナー、ブロッコリー、ササミ、人参、じゃがいもがあればだいたいそれっぽくなるので大丈夫。

ローストビーフは今や家で簡単に出来るレシピがあるのでこれも大丈夫。

あとはミネストローネのスープに使うトマト缶とパスタを買えばOKだ。


一通りの材料を買い揃え、最後に誕生日プレゼントを選ぶ。


急だったこともあり、あまり何をプレゼントするか決めていなかったが、雫がいいところに目をつける。


「ねえ、月影くん。プレゼントなんだけどペアのマグカップなんてどうかしら?」

「マグカップ?」

「そう。マグカップって結構使うじゃない?それに彼女大好き聡くんに、彼氏大好き咲良とお揃いのペアマグカップを渡せば喜ぶと思うのよ」


そう言われて少し黒兎は考える。

確かに、お互い大好き同士の2人にお揃いのものをあげた時なんてそれは、もう、大喜びだ。

バカップルなので、ペアという所に喜ぶはず、それにマグカップという結構頻繁に使うもので実用性も十分。

あとはデザインがあまりごちゃごちゃしていない方が2人の好みだ。


「その案乗った……けど、マグカップなんてどこで買うんだ?」

「ほら、商店街の雑貨屋さんあそこ結構ペアの商品売ってるのよ」

「なんでそんなの知ってんの?」

「優心が教えてくれたわ」

「あいつ、なんでも知ってるな」

「優心いわく、なんでもは知らない、知ってることだけ、だそうよ」

「なんか、聞いたことあるんだよなー」


なんか聞いたことのあるセリフはいいとして、そのペアの商品が売ってる雑貨屋に入る。


そこには明らかにカップル向けの商品と数組のカップルが店内にいた。


うん。気まずい。カップルしか居ない、カップルのための商品のある雑貨屋にカップルじゃない男女が2人。


「なあ、冬矢?さっさと選んで帰らないか?」

「そうね。激しく同意するわ」


売ってるマグカップの中にはお目当てのペアマグカップが数種置いてあった。

その中の比較的デザインのシンプルなものを選ぶ。マグカップ両方を合わせればハート型が見えるマグカップだ。


そのマグカップを持って会計をしようと思った時、雫がもうひとつのマグカップを持ってきた。


「なんだ?そっちにするのか?」


黒兎は不思議そうに聞き返す。さっきのマグカップで雫も納得していたのだがやはり何か言いたいことがあったのだろうか。


「いえ、これは私たち用よ」


?黒兎の頭にハテナが浮かぶ。


マグカップを見れば確かにペアなのだが、デザインはシンプルで、特に何かあるといった感じではない。ただ、デザインがほとんど同じで色が違う。それだけだ。


「なぜに俺たちがペアの?」

「いいじゃない。それに私が一人暮らしを始めた時にマグカップは必要よ?ひとつくらいマイマグカップがあってもいいじゃない」

「まあ、それなら……いいけど」


なんだか無理やり納得されられた感があるが、それはいい。


ということでマグカップを2ペア。4つ買って家に戻る。

何故か雫が嬉しそうだったが放置で。


家に戻れば料理を始める。


ローストビーフを作っている間に雫には野菜のカットを頼み、また片方はミネストローネを調理する。

2人の息があっているのと単純に黒兎が料理上手なのもあってペース良く進んでいく。


「あんまりにぶってないわね」

「何が?」

「料理の腕よ」

「そりゃどうも」

「やっぱり黒兎の料理している姿はかっこいいわ」

「ありがとよ……」

「今照れたわね?」

「てれっ照れてねぇ!」

「これだから黒兎をいじめるのはたまらないのよ」

「悪魔!まあ、そう言う雫も可愛いんだけどな」

「っ」

「照れた?」

「後で殺すわ」

「おお、怖い怖い」


2人の距離は近くなったと言ったが、それはもう急接近だ。むしろ誰より恋人をしていることにまだ2人は気づいていない。


そんな甘々なところにインターホンが鳴る。


「よっ!来たぞー」

「いい匂い!なになに?何してんの?」


優心と陽だ。


「上がってくれ」


2人を家に上がるように促し、数十分後。


インターホンがまたなった。


どうやら主役の登場らしい。


「なんだ?いきなり呼ばれたけど」


理解しきれていない聡の手にはしっかりと咲良の手が重ねられている。

ほんといいカップルだ。


そんな咲良の手が聡から離れた。


パァーン!!!


クラッカーの音が響く。


「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」


パーティーが幕を開けた。

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