第53話氷の女王と両親帰宅前夜

海水浴の日から約2週間ほどたった夜。

黒兎の家には一本の電話が入った。


「もしもし?黒兎?明日2人で帰るから、約束の旅行、付き合ってね?」

「そんないきなり……」

「あー、ごめん。まだちょっとだけ仕事あるから、それじゃあね」

「あっ!ちょっまっ……」


プープープー……


と、いきなりの両親帰宅の連絡と同時に、明日は両親と雫との家族旅行だ。


そんな1日前に連絡されても……準備が……なんて、思いながらもとりあえず、雫にも連絡する。


「冬矢?明日母さんたち帰ってきて、旅行行くとか言ってるけど大丈夫?」

「明日……大丈夫よ」

「溜めたけど、なんか用事あったのか?」

「いや、雰囲気で」

「紛らわしいな」


とりあえず、雫も大丈夫との事なので、急遽、明日の準備をする。


旅行の行先は、北海道、日程は2泊3日。

予定は、先週くらいに母からどこに行きたいか聞かれていたので、もう決めてある。


北海道に行く理由は、単純にもう海行ったから海水浴はいいやってことと、暑いところは行きたくない!という、黒兎と雫の意見で北海道になった。


夏の北海道は、暑いとは思うが、全然今住んでいる街よりも涼しいことは確かなので、避暑旅行と言ったところだ。


「準備って何をするのかしら?」

「確かに……」


準備って言ったって、着替えと、財布と……それぐらいしか思いつかない。

北海道では、観光ついでにショッピングをしたいと母の要望で、向こうでは、観光地巡りと買い物をするくらいだ。


旅行って、案外やることないよな、と思う2人であった。


「とりあえず、準備は各々やるとして……飯にするか」

「……そうね。そうしましょうか」


準備をしないとと、いきなりのことで焦ってはいたが、実際準備をするとなったら、意外にすることがなくて、結局、普段の生活に戻る。


黒兎はご飯を作り始める。


ここ最近は、黒兎も雫も、課題が終わってダラダラと自堕落な生活を送っていたので、いきなりではあったが、旅行に行くことになって、いい気分転換になりそうだ。


ご飯を作り終え、テーブルに持っていき、いつものように雫とご飯を食べる。

本当に、なんでこんな美少女とご飯を食べているかは謎だが、もうそれも慣れて、逆に雫がいない時のご飯風景を思い出す方が難しい。


「ねえ、月影くん」

「なんだ?」

「北海道で、何しようかしら」


確かに、北海道に行ってやりたいこと……と言われると難しい。

きっと、向こうに行けば、色んな魅力的なことがあるのだろうけど、北海道に行ったことのない黒兎と雫にとっては、雪、寒い、味噌ラーメン、時計台、魚介、牧場、白い恋人くらいだ。


「何しようって、まあ、観光地巡ったり、買い物したり……そんなんじゃないのか?」

「そうだけど……なにか、特別なことをしたいわよね、せっかくだから」


確かに。せっかく北海道に行くんだから、なにか特別なことをしたいのはわかる。

けど、特別なことってなんだ?考えれば考えるほど分からなくなる。


「まあ、どうせ、向こうに行けば思いつくよ」

「そうよね」

「雫は、何したいんだ?」

「そうね……海鮮丼食べたり、ソフトクリーム食べたり、味噌ラーメン食べたり、パフェ食べたり」

「食べることばっかじゃねぇか」

「あっ、あと、白い恋人を買いたいわ」

「食べ物ばっか」

「うるさいわね。そんなこと言ってると太るわよ」

「太るのは冬矢の方だろ……」


そう言って、ふと、雫の体型を見ると、意外にも自堕落な生活を送って割には太っていない。

食べて、寝て、家事をして、食べて、寝て……そんなところしか見てなかったので、てっきり、太っているのだろうと思っていた。


「今、私の体を見てたわね。やらしい」

「やら、やらしくなんかねぇよ」

「うん?その目は、『意外と太ってないな』って目をしてるわね。失礼極まりないわ。蹴るわよ」

「なんでバレた!?あと蹴るな痛い痛い」


蹴ると言っても優しく、足でつついてくる程度だった。


「なんでバレたって?目は口ほどにものを言うのよ」

「それ、あったばかりの頃俺が言ったやつじゃん」

「あら、よく覚えてたわね」

「そりゃ、冬矢と出会ってから、忘れるような日はねぇよ」

「……あなたって……本当に」


なんだか、雫がモジモジしているが放置で。

雫と出会ってから、黒兎には、刺激的な日々すぎて……忘れることすら出来ない。


雫が、さっきよりも強く足で蹴ってくる。


「いてっ!痛い痛い」

「何よ、ご褒美よ」

「なんでご褒美!?ってか、蹴られてご褒美なんて……」

「世間では、一日はいた、黒タイツで蹴られることはご褒美なのよ」

「いや、それ!間違ってるから!世間一般では、ご褒美じゃないから!」


そう言いつつ、雫の脚をよく見ると、一日はいた黒タイツ……美少女……。


言葉にすると、とってもやらしかったので、考えることを止めた。


「月影くん?今、そう言えば、この状況やらしいと思ったでしょ?」

「いや、それ、は、その……」

「その、何よ?」


最近の雫は感情が、豊かってほどでは無いが、表現出来ている。

特に、黒兎のことをいじる時なんて、この世の全ての快楽を味わったかのような、最高に意地の悪い笑みを浮かべている。


「冬矢の脚が綺麗だったから、つい……」

「……はぁ。あなたといると疲れるわ」

「なんでだよ」


少しだけ、雫の顔の赤くなったような気がしたが、雫はお風呂に向かってしまった。



黒兎は、雫の居なくなったリビングで、寂しく、皿洗いをしていた。

そして、頭の中が、ずっと、あるものに取り憑かれたように、その事しか考えられない。


──美少女……美脚……一日はいた黒タイツ……蹴り……ご褒美……


いかんいかん。こんな事考えてたらそれこそ、変な趣味に目覚めてしまう。




雫はお風呂に入りながら、最近の黒兎について思うことがある。


(月影くんって、天然タラシ?)


なんか、脚綺麗って言われて満更でもない雫だった。



そしてその夜。


黒兎の夢には、黒タイツを履いて、迫ってくる雫の夢を見たそうだ。


そして……


黒兎は、幸せな時間をすごした。

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