第52話氷の女王と温泉
「温泉だー!」
「はいはい、うるさいよ」
テンションの高い聡に、ツッコんでいく黒兎。
そう、温泉に着いたのだー!……とテンション高めで行きたいが、なにせ、海水浴でみんなの体力はもう限界であった。
一人テンションの高い聡の元に、テンションの低いというか、体力の無くなった無気力の5人がついて、湯屋の半券を買う。
「おばちゃん、はいこれ、大人6人」
聡が、番台のおばちゃんに半券を渡し、温泉に入る。
温泉は、結構広く、中に4つ、外には露天が3つある。
サウナや、垢擦りなんかもあって、さすがスーパー銭湯。
「よし!身体洗ったらすぐ入るぞー」
「お前の体力は無限かよ」
「無限じゃないけど、人一倍ある自信はある」
温泉は確かに好きだが、やはり、どうしても海水浴の疲れが来る。
プールの授業後の授業は眠くなるのと同じだ。
それでも、黒兎としては友達と、温泉なんか来るのは初めてなので、そこそこテンションは上がっている。
ただ、疲れているだけ。
体を洗い、お湯に入る。
まず初めに入ったのは、中にある、源泉のお風呂だ。
効能には、肩こり、腰痛、切り傷や、なんやらと書いてある。そして疲労回復。
「ああぁ。ふう。やっぱり風呂はいい」
「そうだな。疲れがとれる」
「なんだか、聡と黒兎と風呂に入るなんて変な感じだな」
「ん?まあ、確かにな」
「そんなことよりさ、今はゆっくり温もろうぜ」
「賛成」
「同じく」
今までの疲れをぶっ飛ばす!とまではいかなくても、充分疲れがとれる。
あったかいお湯に、ゆっくり肩まで浸かると、自然と会話や、言葉なんか出てこなくなって、ただ癒される。
5分ほどすると、聡がついに口を開いた。
「そろそろ違うところ行かね?」
「そうだな、俺、ジェットバスがいい」
「俺は打たせ湯。肩こるんだよ」
「俺は、電気行きたいな……」
まあ、見事にバラバラ。それでも今回の温泉は癒されること優先なので、それぞれ好きな風呂に入って、10分後露天風呂に集合することとなった。
黒兎は、ジェットバスに向かう。
風呂には誰もいなく、貸切状態だ。
ゆっくり肩まで浸かる。
(癒される)
今日の1日は、とても楽しかった。
それに……自分の考え方を変えることも出来た。
そして、自分にとっての雫の存在価値の大きさも知った。
ただの居候から、いつの間にか、こんなにも、大切な存在になっていたなんて……。
あまりゆっくりしすぎると時間に間に合わなくなりそうなので、露天風呂に向かう。
そこにはもう、2人は居たが、露天風呂はたくさんの人が入っており、とてもゆっくりできそうではなかった。
そこで、外にあった、壺風呂を見つけ、ちょうど3つ空いていたのでそこに入ることにした。
「いやー、やっぱり露天は多いな」
「まあ、そうだと思ってた」
「でも、壺が空いてていいじゃん。それにあんまり人が多いとゆっくり出来ないからさ」
「それもそうだな」
とりあえずは、またゆっくりする。
すると聡が陽が珍しく、真っ先に話しかけてくる。
「あのさ、大切な人とか居る?」
「なんだよ急に」
普段真っ先に話しかけてくることがないことにも驚いたが、まさか、陽が大切な人とか言うのかともっと驚いてしまう。
「いや、なんか、大切ってなんなんだろうってな」
「なんだ?そんなことに悩むなんて、らしくない」
「いや、だからふと思っただけ」
確かに、大切、大切と言うが大切とはなんなのか。
「俺はもちろん、家族も、咲良も、それに、黒っちに陽も大切だぜ。大切なんてよくわかんなし、きっと辞書引いてもわかんないんだよ、大切って。だから大切なんだよ」
「おおっ、なんか、深そうで浅いな」
「黒っちは厳しいなぁ」
「まあ、でも、そうかもな」
「結局、よくわからんな」
「そうだな」
男子高校生3人の結論は、結局よくわからないということになった。
一体、その答えは出るのか。
「まあ、そんなのこれからわかるようになればいいんじゃない?」
またまた聡は、深そうで浅いことを言う。
それでもきっと、聡の言っていることは正しい。
「だな」
「うん」
「ほら、そろそろサウナ行きたい」
「俺も行こうかな?」
「我慢対決か?」
「良い子はマネしないでね」
「黒っちは誰に言ってるんだ?」
「神様……とか?」
「なんだそれ」
雫は、一人ジェットバスに入っていた。
咲良と優心もそれぞれ好きな風呂に入っており、10分後に露天風呂で待ち合わせだ。
ジェットバスに入る前は、中のお風呂に入っていたり、サウナにいたりと咲良と優心とゆっくり楽しみながら、温泉を満喫していたのだが、個人的に入りたい風呂がバラバラであったため、少し自由行動になった。
10分前に雫は風呂を出て露天に向かう。
たまたま、露天風呂は空いており、少しすると優心や、咲良も露天風呂に来た。
「おー、空いてるね。ラッキーじゃん」
「そうね。こんなにも空いていると思わなかったわ」
「うん。本当ついてるね」
ゆっくりお湯に入る。
露天は、中の風呂と違って、程よくぬるめのお湯で、長い時間入っていても大丈夫そうだった。
外の景色を見ながら、ゆっくりお湯に入るというのはとても、普段では味わえない、最高の時間だった。
ふと、雫は思う。
なんだか、お風呂をはいりに来るなんて久しぶりな気がする。
数ヶ月前まで、毎日風呂に入ることすら出来ず、屋根のない場所で、1人寂しく寝る。その時は寂しいなんて思わなかったけど、今、一人、屋根のない場所で寝るなんて、とても寂しいく感じる。
それも、どこかの、誰かの、お節介の、優しい人に拾われてからは、そんなことすら思う暇さえない、色んな意味で、濃い時間を過ごしていた。
「ねえ、咲良、雫、私と友達になってよ」
「どうしたの?急に」
「いや、何となく」
「何となくなんて……変な優心。友達だよ。私たちは。ね、雫」
「ええ、咲良も、優心も大切な友達よ」
「うん……ありがとう」
なんだか変なことを言う優心だが、それでも、こうやって、誰かと過ごす時間はとてもかけがえのないものになる。
「そろそろでよっか」
咲良の声で時計を見るともう、15分ほど入っている。
そろそろでないと、黒兎達を待たせている可能性があるので、上がることにする。
風呂を出て、着替え、女湯の暖簾(のれん)を出ると、もう、黒兎達は、風呂から上がっており、雫達を待っていた。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「うんん。いま出たとこ。それより喉乾いてないか?」
「喉?確かに、少しかわいたわね」
「牛乳買いに行くか」
「そうね、そうしましょうか」
他の4人も風呂上がりの定番、牛乳を買いに、自販機の前に行く。
黒兎と雫と陽はコーヒー牛乳
聡は、牛乳
咲良はフルーツ牛乳
を買った。
一気に黒兎は飲み干し、瓶置き場に空き瓶を置きに行く。
ただ、癒された温泉。
色んな意味で、楽しくも、大変なことも、全て含めて、最高の1日になった。黒兎であった。
否。6人であった。
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