第37話イケメンと元気っ娘とキャンプファイヤー
「なんでこんなことに……」
「本当よ……ついてないわ」
「おい、あんま動くんじゃねぇ」
「ごっごめん。手間かけちゃうね」
「なーそ言えばみんなはどこにいるんだ?」
「分からない。少し探しに行く?」
今キャンプファイヤー真っ最中。
キャンプファイヤーは、班行動をしなくてもいいため、それぞれが好きなようにこの夜を過ごすこととなる。
とまあ、これだけでは意味が分からないため、
少し時間を巻き戻してみる。
午後6時30分
「咲良ーキャンプファイヤーで一緒に踊るだろー?」
「そうだね。楽しみにしておく」
「あぁ、それと黒っちはキャンプファイヤーなんてクソ喰らえってさ、部屋で寝てる」
「相変わらずだね。黒兎は。せっかくの林間なんだから楽しめばいいのに」
「ほんとそーだよな。損してるよ」
聡と咲良カップルはやはり、キャンプファイヤーでは一緒に過ごすことになっている。
当然と言えば当然の結果だら。そんなカップルを横目に黒兎はふて寝をしていた。
(何がキャンプファイヤーの伝説だよ。本当にクソ喰らえだ。ちょっとイチャイチャしたいからって。 聡も浮かれやがって本当になんなんだよ)
とキャンプファイヤーで踊る相手がいるはずもない黒兎はふてくされて、やけくそで寝ていた。
もちろん、キャンプファイヤーは参加するのが当たり前だが、お腹が痛いと言って保健室かどこでサボるつもりでいた。
「おーい、陽、お前はどこにも行かねぇよな」
「なんだなんだ、ちょっと周りが浮かれてて、自分に踊る相手がいないからってすねやがって」
「なんだよ。別にいいだろー 。それより陽は踊る相手とか居んの?」
「それゃまあ、」
「まあ?」
「いる訳ねぇだろ」
「おぉー 、同士よ」
陽は女子の人気が高い。ゆえに誘うのには相当のハードルがある。よって黒兎と同じ踊る相手いない組だ。
「でもさぁ、陽は、キャンプファイヤーいくんだろ?」
「まあ、な。それよりサボるのは良くねぇんじゃねぇの? 顔出すだけ出しとけよ」
「どーしよっかなー?」
黒兎も別にキャンプファイヤー自体が嫌なのではなく、踊る相手が居ないと哀れみの目で見を周囲から向けられるのが嫌なだけな心の小さい、しょうもない理由だった。
何もキャンプファイヤーは踊るだけの行事ではない。
クイズがあったり、先生達が歌いはじめたり、同級生の漫才があったりと、出し物をいくつかする予定だ。
行ったら行ったで楽しいのだろうが、やはりメインは最後のダンスになってしまう。
踊る相手は自由で、男子同士ふざけ合いながらでもいいし、女子同士で、キャッキャするのでもいい。
がしかし、やはりあの伝説のせいで、みんな何とか意中の異性と踊ろうとする。
聡は咲良と踊ることが決まっているし、陽も行けば誰かに声をかけられるだろう。その邪魔をするのは何だか気が引ける。
優心もクラス全員から、基本的に人気があるので、誰かに誘われていなくても、きっと踊る相手はすぐにできるだろう。
雫に関しては、踊る相手はすぐにできるだろうし、なんなら自分とは踊る気はないとついさっき言われたばかりだった。
よって、月影黒兎ぼっちである。
別に今に始まったことではないが、最近は周りに常に友達がいたり、美少女が家に住んでたりと、
少し自分のスペックには入りきらない生活をしていたので、自分の素のスペックを目の当たりすると何だか心にくるのである。
(あーあ。いつも通りなんだけどなー。今の状況が)
「俺は行ってくるぜ」
「んー。じゃ、また部屋でなー」
「本当に行く気ねぇんだな、まあ、気が向いたらこいよ」
「おう。行けたら行く」
「それ行かないやつのセリフな」
行けたら行くは基本信用してはならない。これは暗黙のルールである。
すなわち、黒兎は行く気はないということだ。
保健室にでも行ってしれっとサボってやろう。そう考え、なんとも白々しく、保健室になっている部屋に行き、先生から部屋で大人しくしてなさいと言われたのでこれで計画は完璧だ。
スマホをいじりつつキャンプファイヤーの時間が過ぎるのを待つ。
時間は今午後7時15分だ。
黒兎がスマホをいじっている時、陽の前ではちょっとしたハプニングがあった。
黒兎に別れを言って部屋を出たあと、普通にキャンプファイヤーの会場へ向かって歩いていく。
会場の行き道に何人かの女子生徒から声をかけられたが、相手を傷付けず優しく、上手く断っていく。
陽はキャンプファイヤーを楽しみに来たと言うより、
委員長として、 行くだけ行かなければならないとどちらかと言うと乗り気ではなかった。
すると後ろから最近は聞き慣れた声がする。
「おっ!陽じゃん。待って今行くから〜っあっ!」
後ろで鈍い音がする。振り向けば優心がコケているのだ。しかも何も無いところで。
「おいおい、嘘だろ。そんなドジっ子いるか?」
とっさに着いた手からは擦り傷のような物が多数みえ、膝からも血が出ているのがわかる。
「痛ててて」
「おい、 大丈夫かよ」
「これは、ダメだね。大丈夫じゃないよ 。 痛いよ。 ちょっと保健室行ってくる」
さすがに血塗れの女子生徒を放っておく事はできないし、なんならこのまま保健室に連れていけば、 キャンプファイヤーに顔出さずに済むため、陽は優心を保健室に連れていくことにした。
「保健室に連れてってやる。ほら乗れって」
陽はそう言っておんぶの体勢になる。
「ごめん。 いいの?」
「ああ、それより、 血!ほら流れてるから!」
「本当だ! ごめんね」
優心も陽のキャンプファイヤーを邪魔したくはなかったが、せっかくの親切なんだから、甘えとおこうと 陽の背中に乗る。
陽の背中に揺られいつもより少し高い景色を見ながら優心は思う。
(陽やっぱり優しいなー。 陽の見てる目線ってこんなに高いんだ。 それに背中も広いし、意外と細身かと思ったけどがっちりしてるんだぁ)
優心にはもう、 痛みはなかった。
否、感じられなかった。
全て普段と違うように感じられた。
2日目の夜にもなり、だいぶ慣れてきたこの施設も、 何だかとても違って見えた。
身体も怪我のせいなのか熱く感じてしまう。
「ほら、着いたぞ」
「ごめんね。ありがとう」
保健室に着いた陽は、優心を下ろし、先生がいるかノックする。
しかし中からの返事はない。ドアノブを捻ると鍵はかかっていなかったようなので、仕方がないと思い、応急ではあるが、優心に処置をしていく。
「おい、あんま動くんじゃねぇ」
「ごっごめん。手、かけちゃうね」
「そんなことより、ドジなんだから気をつけてくれよ」
「ごめんってば。それより陽、キャンプファイヤー行かなくていいの? 私はもう、大丈夫だよ」
「あのなぁ、見てれば大丈夫じゃないって分かるし、 それに、キャンプファイヤーは別にいいんだよ。 もともと顔出すだけの予定だったし」
「うん。ありがとう」
なんとも言えない空気が部屋に広がる。
友達とはいえ、イケメンにこうやって介抱されるのも悪くないなと思いつつも、 なんだかんだで優しい陽に少しドキッとしてしまう。
陽は優心のことを手のかかるやつだとは思っているが、自分のことより、他人のことを優先する優しさには感心している。
「うん。でも、 血も止まったし、これで動けそうだよ」
「それは、 良かったよ」
「この後どうするの?」
「そうだなー。 とりあえず部屋に連れてってやるよ」
「女子棟だよ?」
「こんな時ぐらいいいじゃねぇかよ」
「もしかして、陽も女子棟、気になるの?」
「うるせぇ。ほら、行くぞ」
「うん。ありがとう」
陽はまた優心をおぶって、優心の部屋に向かう。
陽は少し、背中にあたる柔らかさを感じながら、こいつも一応立派な女の子だなぁと思ってしまう。
午後7時30分。
陽は優心を背負いながら、優心は陽に背負われながら、女子棟に向かっていく。
そんなことも知らずに、 キャンプファイヤーは始まり、炎は激しさを増していく。
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