第33話氷の女王と林間学校夜の定番

「ということで恋バナだ!」


陽が夜中にも関わらず元気に話が進んでいく。


「まあ、聡は彼女いるし、ノロケを聞くのもやだから黒兎から聞こうぜ」

「えっ?!俺から?」

「えっ?!俺のノロケは?!」

「「ノロケはいらない!」」


聡のノロケ話なんてずっと聞いているので黒兎と陽は今更聞くことも無いのでサラッと拒否していく。


「それより俺には恋バナなんてねぇぞ。なんなら陽の方が絶対あるだろ」

「そんなこと言いながらー」

「あるんだろー?」

「なんか今日の2人きもい」


何故か意気投合している2人は置いておいて、実際、黒兎に恋バナなんてものはない。なんなら陽の方が絶対青春を謳歌しているだろうに、黒兎に話を振ってくる意味が分からなかった。


「それはもう、ね…」

「なんだよ、もったいぶんなよ」

「それは黒兎のほうだろー?」

「何がだよ」

「雫さんとどうなんだ?」

「冬矢と?」

「ほら、進んだか?」

「何を?」

「関係だよ!雫さんとどこまで行ったんだ?」

「どこも行ってねぇよ。まず俺と冬矢はそんなんじゃない。前から言ってるだろ?」

「じゃぁさ、黒兎はどうなんだよ?雫さんのこと好きじゃないのか?」

「それは…わかんないよ。」


黒兎としては雫ことを好きか嫌いかと言われたら好きだと思う。しかしそれが恋愛感情かどうかと言われれば別だ。


今の雫と黒兎の関係は1年だけのシェアハウスメイト、家主と居候、友達だと思っている。

せいぜいそのくらい。もっと言うならちょっと手のかかるお姉ちゃんみたいな恋愛感情と言うより家族に近いものがあった。


黒兎はそれを恋愛感情と呼ぶかは分からなかった。家族と言えば家族。他人と言えば他人。そんな中途半端な関係だからこそ、異性として見ていても、なにかしようなんて思わない。


「冬矢とはなんか家族みたいなもんかもしれないな」

「えっ!?黒兎、雫さんと結婚すんの?」

「する訳ねぇだろ!なんでそうなるんだよ!」

「いや、だって、恋人超えて家族って…ねぇ」

「…ねぇ、じゃねぇよ!あいつとは1年だけのシェアハウスメイトってだけだ」

「それじゃ黒兎は雫さんが1年後に出ていくことになんか思うの?」

「それは…」


1年。それが黒兎と雫のタイムリミット。

黒兎の両親は順調に雫の家を探してくれているらしく、近々帰って来た時に雫と1度下見に行きたいと連絡が来ていた。


1年経てば雫はもう、いない。それが黒兎としてはせいせいすると思いつつもどこかなにかが足りなくなる怖さ、寂しさを感じていた。


「まあ、あいつも俺と住まなくていいからせいせいするんじゃねぇの?」

「黒兎、今は雫さんの事じゃないよ」

「黒っちはどうなんだよ?」

「そんなの…わかんないよ…」


黒兎はわからない。この答えがいつ出るのか、それとも一生解けない問題なのか。けれどもいつか答えは出さないといけない。


「もう、ねる!!」

「おい、拗ねんなよ!」

「黒っち起きろよー!」


心がざわざわするので黒兎はやけくそで寝た。




女子棟女子チーム


「ねえ、咲良、雫!」

「なに?優心?」

「恋バナしよーよ」

「恋バナ?」

「そうだよ!泊まりの定番恋バナ!」

「恋バナと言っても私は何も無いわよ?」

「私は…ノロケになっちゃいますね」

「そんなんだよなー、私もなんもないし」

「でもでも!恋バナかどうかは知らないけど雫と黒兎との同棲気になるかも!」

「確かに」

「気になるかしら?」

「気になるよ」


黒兎と雫の同棲生活なんて知ってどうするのだろうと雫は思いながらも、別にこの2人になら聞かれてもいいかと普段の生活を話していく。


「朝はだいたい月影くんが私を起こしてくれるわ。私は朝に自分の制服とついでに月影くんの制服にアイロンかけたりね。ご飯は月影くんが作ってくれるから、その間私は、洗濯したり、掃除したりしているわ。お風呂は基本私を先に行かしてくれるわね。服とかも一緒に買いに行ってくれたり、なかなかに優しいところもあるわね。」

「なんか、もう、新婚さんみたい」

「いや、もう、新婚さんと言うより熟年夫婦みたいね」

「と言っても、月影くんとは何も無いのだけど」

「雫はさ、正直黒兎のことどう思ってる?」

「正直ね…」


雫は考える。黒兎については感謝しているし、優しいところもあるので好きか嫌いかと言われたら好きなのだろうけど、実際黒兎に対して何か思ったことは無い。…と信じている。


ここが雫と黒兎の噛み合わないところ。

黒兎はどうせ冬矢は俺のことなんてどうでもいいと思っている。そう思うことで自分の心のざわめきを落ち着かせる。


雫は月影くんには感謝している…ただそれだけと思うことによって自分の知らないことを拒否していく。


そうやって色々自分から遠ざけてしまう。

黒兎と雫に共通して言えることは、無知は怖いのだ。知らないということが怖い。この先に行くと何だかいつも通りに居られなくて…。だからこそ知らないことは知らない事として遠ざけて、逃げてしまう。

そうやって互いの色んな事が綺麗にすれ違って行く。それが黒兎と雫の関係である。


「まあ、感謝はしているわ。こんな私を家に住ましてくれて、自立の手伝いまでしてくれている。だから月影くんには感謝こそしているけれど、他にどうという事はないわ」

「そーなんだ」

「雫も大変なんだよね」

「まあ、大変と言っても、結局1年経てばいつも通りに戻るだけよ」


(1年経てばいつも通り…きっと大丈夫よ)


「そっかー。でも雫と黒兎はお似合いだともうよ」

「私も思う。なんだかんだで黒兎も満更では無さそうだしね」

「そうかしら?まあ、月影くんはなんだかんだ私の事を大切にしてくれているのは確かよ。じゃないとこんな家出少女を1年も匿ってくれないだろうし」

「やっぱり雫、黒兎のこと好きじゃないの?黒兎の話する時目の色違うもん」

「私も思った。何だか輝いてるよね」

「そんなことはないわ。絶対にね。絶対に…」


「もう寝るわ明日も早いし、咲良達も早く寝なさいよ」雫はそう言って直ぐに布団に入ってしまった。


明日林間学校2日目、そして、例のパジャマを着る日である。

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