第31話氷の女王と林間学校1日目2

林間学校の施設についてすぐ各自注意事項を聞いたら、自分達のグループに別れ部屋に入っていく。


黒兎達は2階の階段から1番遠い部屋だった。


「なあ、黒っち」

「なんだ?」

「なあ、陽」

「なんだ?」


聡は未だに頬が赤く少し腫れている。


「遠ーーーーーーーい!」

「うん」

「そうだな」

「遠いよ!トイレも、階段も!自販機だって、エスカレーターだって!」

「それが?」

「どうしたんだ?」

「嫌だろ。普通に。なんで廊下の1番突き当たりの部屋なんだよ!」

「なあ、陽。トランプ持ってきてんだよ」

「マジ?」

「ああ、携帯も持ってるぜ」

「俺も、やっぱ持ってくるよな」

「聞いけぇえええい!」

「あーはいはい聞いてる」

「あーはいはい聞いて…これで革命だ!」

「聞いてねぇよな!革命とか言ってるし、大富豪やっちゃってるよな!俺も混ぜろ」

「しゃァねェなァ、大貧民」

「大貧民」

「誰が大貧民じゃい!」


珍しく聡がツッコミをして、黒兎がボケに回っている。

そんなどうでもいい話をして部屋で少しの間の休憩をする。



一方その頃。



「優心?どこ?」

「咲良?トイレだよー」

「あっ…ごめん」

「いいよいいよ」

「それと…雫さん」

「何かしら?」

「いや、なんにもない」

「フー、スッキリした。どうしたの?咲良、雫ちゃん」

「なんにもないわ」

「うんそうだよ、準備して下に行こ」


雫達の部屋は3階の階段側だ。

黒兎達とは違い、階段も、自販機も、トイレも全部近い。


(うわぁ雫さんと何とかこの林間学校で友達として呼び捨てにするくらいの仲になりたいな)

(何とかして雫ちゃんのことをもっと知って友達になりたいな)


(何だか、咲良さんと優心さん、お互いを呼び捨てにしていて羨ましいわね。あの二人なら友達になってもいいのだけど)


何やら女子達はこの林間で友情を高めるのか?

お互いに少し距離があるのを気にする女子グループであった。


一方その頃。


「革命!」

「革命返し!」

「スペードで縛る!」

「階段だー!」

「なにぃ?!!!」

「やられた…」

「ふHAHAHA!貧民共ひれ伏せ!」



大富豪が超盛り上がっていた。






その後下に降りると今日の初めのイベントクラスマッチをすることになった。


クラスマッチは綱引きだ。


「綱引きって…オイオイ俺たち高校生だぜ?」


みんな口々に文句を言い始める。黒兎も、実際綱引きって…と思っている。

そんなふうにあーだこーだ言っている間に綱引きが始まる。


「それでは綱引きを始めます!始め!」


始め!の合図で1組対2組が綱を引く。

ただそれだけなのに


「うぉおおおおおおおおおお!」

「負けんな!1組なんかにー!」

「気合い入れろ!」


うん。超盛り上がっている。散々文句言ってたヤツらに限ってめちゃくちゃ盛り上がっている。


「勝者は2組!」

「よっしゃぁああああ!」

「くっそぉおおおおおおおー」


「なあ、陽、聡」

「何?」

「何だ?」

「盛り上がりかたヤバいな」

「まあ、行事の勝負事ってだいたいこうなるでしょ」

「そんなもんか?」

「そんなもん。そんなもん」


「次は3組みです!」


「俺たちだぜ」

「行くぞ」

「おう」



結果は、惨敗。順位として4位だった。5クラスあるうちの4位と言う何とも微妙なところに落ちついて林間学校はすぐに次の行事に入っていく。


「今から登山を始めます」

「注意事項は、必ずチェックポイントを4つ回ることと、はぐれないこと、4時までにはオリエンテーションを終え帰って来ることだ。それ以外は自由だ。必ず守るように」

「はあーい」


そんなこんなで雫達とも合流し、登山を始める。


難なくチェックポイントを2つ回って3つめのチェックポイントに向かう時


「雫さん」

「何かしら?」


咲良が雫に声をかけた。


「あの、その、ね」

「今更緊張されるようなあいだでもないと思うのだけど。何度か遊びに行っているし」

「ごっごめん、あのね実はね」

「何かしら」

「雫さんともっと仲良くなりたくて…呼び捨てにしたいなぁと思いまして…」

「……」

「あぁ…ごめん。ごめん。いきなり何言ってるのかな私!雫さんそう言うの嫌っぽいもんね」

「いいわ。呼んでくれないかしら?雫と。お願い咲良」

「はへ?呼んでもいいの?って今咲良って…」

「私もいい?」

「いいわ。優心」

「わーい。ありがとう雫」

「あっありがとう。しっし…」


咲良はふーと息を吐いて呼吸を整える。


「雫。よろしくね」

「よろしく。咲良、優心」


今まで心を開かなかった雫に、呼び捨てで呼び合うような仲の子ができた。その事に黒兎は感動して、何だか自分まで嬉しくなってしまう。


そんないい所に聡は入っていく。


「じゃあさ、俺も冬矢さんのこと雫って呼んでもいい?」

「無理」

「えっ?」


黒兎は心の中で笑い転げる。

(ざまぁみろ。アイツの心を開くのはとっても時間のいる事なんだよ!そんなノリで心開いてたら俺は苦労してねぇよ!)


「なんでぇ?」

「私は坂口さんのこと知らないもの、それに冴羽さんだって」

「じゃあさ、聡くんとか聡さんにしてくれない?」

「嫌よ。なんか、気持ち悪いもの」

「気持ち悪いだと…」


あまりに可哀想なので黒兎が助け船を出してやる。

ここから上手くいくかどうかは聡しだいだ。


「冬矢、聡さんくらい呼んであげたらどうだ」

「月影くんは黙ってて」

「おい!ひどいくね?」

「ひどいくないわ。黙ってて欲しいから言っているの。それ以外に理由が必要?」

「なんて、完璧で、最悪の屁理屈なんだ」

「私は完璧よ。そう、屁理屈すらもね」


「なんか本当に雫と黒兎ってお似合いだよね」

「本当に思う」


咲良と優心は横でそんなことを言っている。


「そんなことは無いわ。咲良、優心。」

「聞こえてたの?」

「私、耳はいいほうなのよ」

「そんなことより、聡さんぐらい呼んでやれ」

「あら、月影くん。生きていたのね」

「生きてるわ!これは家主命令だ!」

「それは卑怯よ。そんな逆らえないじゃない。きっと月影くんはいつか、家主命令で私に乱暴すると思っていたのだけれど、それが今なんて」

「何?!乱暴するのと同じくらい嫌なの?可哀想そうだよ!聡!ほら、メンタルブレイクされちゃってるよ」

「俺のことなんていいんだ月影くん…」


聡のメンタルがブレイクされたところで思わぬ行動に雫が出る。

きっとそれは雫の成長の証なのである。



「そんなことより行きましょう、聡くん、それに、陽くんも」

「俺も名前呼び?」

「やっと冬矢さんに呼んで貰える」

「それだと黒兎だけ苗字呼びだな」

「そうね。月影くんは…このままでいいわ」

「なんでだよ!?」

「だってこっちの方が慣れているし、それに…」

「それに?」

「月影くんは、私の名前を雫って呼んでくれたら私も黒兎って呼ぶわ」

「うっ!しっしし…冬矢…」

「ヘタレね」

「ヘタレだな」

「うるせぇ!」


これにより林間メンバーは晴れて友達となった。お互いを下の名前で呼び合うくらいには。


登山と言うより雑談で終わった登山の時間。

あの後無事4つめのチェックポイントも回ってさっさと下山した黒兎達だった。

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