第30話氷の女王と林間学校1日目1
「起きろー!」
「ん?今何時かしら?」
「もう、5時半だよ!後で30分でここでないといけないよ!」
「んぅんうあむ」
「何寝ぼけてんだよ!(可愛い…)」
「もう一度今何時か言って」
「だーかーら!5時半!」
「5時半…5時半ね……………もう、出発まであと30分じゃない」
「だからそう言ってるんだ!」
「ご飯食べていくぞ!」
「ええ。分かったわ。急いで支度をしましょう」
黒兎と雫は急いで支度を済ませていく。昨日の夜にバッグに入れるものは全て確認しておいたので意外と直ぐに準備は終わった。
それでももう、出発10分前、雫も黒兎も今服を着替えている。
「行くぞ!冬矢!」
「今髪結ってるからまって」
「髪なんかどうでもいいだろ!」
「どうでも良くない。髪は女性の命よ」
「つい数週前までお風呂久しぶりに入ったとか言ってたやつがよく言うな!」
「それはそれ、これはこれよ」
「上手く片付けようとするな!」
「便利な言葉よね。それはそれ、これはこれ」
もう我慢できん!そう思い黒兎は洗面台に向かっていく。洗面台の扉を開けるとそこには私服の雫が立っていた。
林間学校は制服でなく、私服で行くのだ。
そのため、雫の服のセンスが危ぶまれたが、至って普通の可愛い私服だった。
「おい、その格好は?」
「この服?」
そう言って雫は髪を結い終わったのかこちらに振り向いてくる。
長めの髪が振り向くことで、それはもう見ただけで美しいと声を漏らしてしまうほどに揺れ、振り返った風でちょっと甘めのいい匂いがして顔を見ればそこには美少女が立っていた。
「…………」
「どうしたの?そんなに見つめて、気持ち悪いわよ?」
「今の冬矢に言われるならいい」
「私は月影くんをこんな気持ち悪いブタにした覚えはないわよ」
「今の冬矢にならブタって言われても構わない」
「…ごめん、本当に無理」
「はっ!?」
黒兎は目を覚ます。あまりの美くしさに何やらやばいことを口走っていたようだ。
最近、黒兎の前では感情の出てきて、暖かい声だった雫が、今、初めて会った時のような目と声で、いや、それよりも哀れみと蔑みを持った氷のナイフのような声と目で「本当に無理」っていわれた。
これは、黒兎が悪いが、黒兎でなくても傷つくのだ。むしろ黒兎だからこそ、耐えられている感じがある。それくらい、氷の女王の冷たさは黒兎の心を抉り、凍らせ、粉々に粉砕した。
「おっと、言い過ぎてしまったわね。これは完全にメンタルブレイクされているわ」
「冬矢さん…林間行きましょうか」
黒兎は林間学校が始まってすらないのに完全に死んでいる。
「ええ、そうね」
「はい…」
黒兎と雫は気づかなかった。今日は林間学校で浮かれていた、もしくはメンタルブレイクでそんなこと考えることすら出来なかった。
いつもの登校と違うことを。今日は私服登校とそして
黒兎と雫は2人して家を出てしまった。
誰にも見られてないといいが…
勿論、この物語にはお約束通りの展開になる。
「ん?今のって冬矢雫と…あと?もう1人の男の子は誰?ってか同じ家から出てきてない?…確かこの家…月影…って誰?まあ、きっと見間違えだよ!そうだよ!でも確証が取れれば…うしし。冬矢雫を…。」
その子の名前は霞田 露かすみだつゆこの子もまた1人のこの物語のキーパーソンである。
そんなこととも露知らずメンタルブレイクされた黒兎と少しウキウキ気分の雫は学校に向かっていく。
「到着よ」
「そうだな」
登校中に何とか心を持ち直した黒兎とさっきから黒兎に分かるくらいだけウキウキしている雫は何とか集合時間に間に合った。
「おっ!黒兎。なんかギリギリじぁね?」
「陽おはよ。まあ、色々あったんだよ。いろいろ」
「黒っち、おはょ」
「おはよう、聡」
「聡なんか眠そう?」
「ねむぃよぅ」
「どうせ楽しみ過ぎて寝れなかったって言うんだろ」
「そうだよ」
「おいおいバス出るぜ」
「乗らねぇとな」
「おい!聡!いくぞ!」
「はぁぃー」
楽しみ過ぎて寝れなかったので今日は楽しみよりも眠気が先に来てしまった聡と普通に寝た黒兎と陽はバスに乗っていく。
バスに乗るとすぐに聡は眠ってしまった。
「適当に雑談するか」
「そうだな」
バスに揺られ雑談し、気づけばもう、林間学校の施設だった。
「おきろ!聡」
「おきろ!聡!!!」
「起きねぇ」
そんなこんなで苦戦していると後ろから雫たちが降りてきた。バスの通路を横切った咲良が「はぁあ」とひとつため息をつく。
そして次の瞬間…
「聡ー起きないと」
パァーン!!!!
咲良の平手が聡の頬を打った。それは、もう、いい音で。
「はっ!!」
聡はなにがなんだかわからない状況。ただ分かるのは黒兎や優心、雫に陽が咲良のことを恐る恐る見ていることと、そして確かに感じる頬の痛みだった。
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