第29話氷の女王と林間学校前夜

学校が終わり、家に帰った雫と黒兎は明日の林間学校の準備もしつつ、今日は林間学校前ということで学校も5限目で終わり、早く帰った2人だ。


家に着いた2人は各々の部屋に入って明日の準備、黒兎は課題、雫は課題はもう終わって掃除やら洗濯やらを始めている。


黒兎も雫も用事にひと段落つき、リビングに降りていく。


「明日林間だけど準備できてるか?」

「できているわ。明日の朝は少し早いのよね?」

「ああ、6時にはここでねぇとな」

「いつもは8時10分ぐらいに出ているから、2時間程早くなるのかしら」

「そうだな」

「それなら明日5時に起こしてくれる?」

「自分で起きる気は?」

「ないに決まっているじゃない」

「決まってんだな。もう少し努力しろよ」

「あなたが明るくなっても寝てていいって言ったんでしょ?」

「そんなこと…あぁ」


黒兎は思い出した。雫が来て間もない頃に雫は外で寝ていたくせでとても早起きしていたのだ。今は家で寝ているから、明るくなっても寝てていいと黒兎は言ってしまっていた。


「よく覚えてたな」

「あなたに言われたことは覚えているわ」

「おっおう…」


なんか最近雫の返し方がずるい。黒兎は恥ずかしながらもとても嬉しかった。そんなに俺の事思ってくれてるのかとそんなことを思うだけで心が踊る。


「まぁ、そんなどうでもいいことは置いていて」

「おい!どうでもいいとかいうな!ちょっと嬉しかったんだぞ!」

「…そう」


黒兎は最近ツッコミにまわっていて言葉が流れでてくる。そんな黒兎が気づくはずもない。

今結構とんでもないことを言ったと。

嬉しかったなんて言ってしまっていることに。

雫の少し戸惑ったように見える表情を見て黒兎はただ不思議に思うだけである。


「まあいいわ。それより今何時かしら?」

「今?5時半」

「そろそろご飯の材料買いに行かないかしら?」

「もうご飯かよ。まあ、今日はスーパー空いてないし、ちょっと遠目の商店街行くか」

「そうね。行ってらっしゃい」

「ああ」


掃除やら洗濯やらは雫はやってくれるので、料理とその買い出しは黒兎の担当だ。


実際のところ、隣町ぐらいに行かないと、黒兎と雫が一緒に晩御飯の相談をしているとこを学校のヤツらに見られかねない。

(まあ、隣町のショッピングモールでクラスメイトと会ってしまったがそれはノーカンで)

その為結局、力もあって料理をする黒兎が買い出しである。


買い出しのため、玄関を出ようとすると雫がリビングから駆けてきた。


「待って」

「どうした?冬矢。なんか伝え忘れか?」

「一緒に行く」

「え?今なんて?」


思わず聞き返す。普段そんなこと絶対に言わない雫がいきなり買い出しに行きたいというのだ。いつもは「めんどくさいからあなた一人で行きなさい」なんて言って来るのに。


「だから行くと言っているの」

「えー!?!!??!?」

「なにそんなわかりやすい、安いリアクションしているの?着替えてくるから待ってて」

「でもでもどうして急に?冬矢はいつも「めんどくさいから一人で行きなさい」って感じじゃん」

「失礼ね。あなたはわたしをなんだと思っているの?」

「氷の女王?」

「まあ、否定はしないわ。でもそのあだ名なんか氷の魔法使えそうよね」

「やめろ!デイズ☆ーだけには喧嘩を売るな!業界の常識だぞ!」

「その発言こそがデイズ☆ーと業界に喧嘩を売っていると思うのだけど」

「そんなこと言って冬矢だって☆の位置変えてねぇじゃねえか」

「まあ、そんなことは置いていて」

「今日置きすぎじゃね?まあ、いいや。てか理由だよ!理由。ついてくる理由は?」

「あなたと行きたかったと言う理由じゃダメかしら?」

「おいおい、もう惑わされないぞ!なんか裏があるな?」

「ないわよ?」


これはガチの顔である。長らく一緒にいると嫌でもある程度雫の表情を感じとれるようになっていく。雫は本気で黒兎と一緒に行きたいからついてくるのだ。


「着替えてくるから待ってて」

「おっおう」


雫はササッと階段を上がって自分の部屋に行ってしまう。

黒兎は雫が降りてくるまでの間これまでに感じたことの無いような短い時間をとてつもなく長く感じていた。


「はい、お待たせ。行きましょう」


そう言って着替えてきた雫は買ってやった帽子を深々と被りまたまた買ってやった服を着ており、化粧でわざとそばかすをつけていた。


「なんでそんな帽子深々と被ってるんだ?後、お前そばかすなんてあったか?」

「変装よ変装」

「変装?」

「遠目の商店街と言っても学校の人達がいないとは限らない、なんならきっと一人位はいると思うのよ。隣町のショッピングモールで会うくらいだもの」

「まあ、そうだけど。なんかそこまですると有名人みたいだな」

「まあ、学校の中では有名人だと思うけど」

「言い返せねぇから悔しいわ」

「そうでしょう」


商店街に行く途中通る人通る人皆が雫に釘づけである。そばかすがあろうと美人な事には変わらない。むしろより可愛くなっている。

変装しといて良かったと黒兎は胸を撫で下ろす。


そして商店街に着いた。

そこでどの店からよろうかと今日の献立を考えながら歩いているといきなり雫が「今日外食にしないかしら?」と聞いてきた。


「いいけど、なんで急に?」

「これがあるのよ」


珍しくテンション高めの雫である。その手に持っているチラシを見ると…


「カップルで来られた方はステーキどれでも半額…なになに?商店街起こしプロジェクト?恋人で来よう商店街デート?…って?」

「この商店街、今カップルでステーキ屋に行くとどれでも半額になるのよ」

「うん。それで?」

「月影くんと来てカップルって言って入ってステーキ半額で食べようってことよ」

「やっぱ裏あるじゃねぇか!何があなたと行きたかっただよ!結局ステーキじゃねぇか」

「ん?なんでそんなに怒っているのかしら?」

「え?」


黒兎は気づく。雫は本気でステーキの為だけに一緒に来たのだ。その事を黒兎に伝えるときに言葉が足らなくて誤解が生じているだけなのだと。

雫はご飯のこととなると一気に素直になる。

もう、ご飯奢るから着いてきてって言ったらどこまでも着いてきそうなくらいには。


「そういう事か…まあ、いいよ。ステーキ行くぞ」

「ん?それならいいのだけど。ステーキ行きましょうか」


ステーキ屋に着いて雫はかなり大きめの特大ステーキを頼んでいた。

その横で黒兎は普通サイズのステーキを食べている。

そんな雫に客の目は釘づけである。なんか雫に視線が集まりすぎてあんまり食事に集中できなかった黒兎であった。


(可愛いのは分かるけどみんな冬矢見すぎじゃね?)

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