第12話氷の女王と土曜日の終わり
家に着いた2人はすぐに制服を着替え黒兎は部屋着に、雫は買ったパジャマに着替えリビングに降りて来た。
「どうかしら、このパジャマ」
「うん。いいと思うぞ」
「ありがとう。今日は助かったわ」
「ああ、今飯作ってるからちょっと待っとけ」
「分かったわ。その間に洗濯でもしてくるわ」
「頼むよ」
黒兎はすぐに調理を始める。今日の夕食は、
豚のしょうが焼き、ご飯、味噌汁のしょうが焼き定食だ。
体の健康を考え、しょうが焼きのキャベツは多めに、味噌汁は塩分控えめにしてある。
いつもの黒兎は、買い物の後などは、コンビニなんかで済ましてしまったりするのだが、昨日からいる家出女王様のために基本自炊にしたのだ。その代わり雫も家の家事全般をこなしてくれる。
すると洗濯機のある風呂場の脱衣場の所から声がする。
「月影くん」
「なんだー?」
黒兎は風呂場まで通るように大きな声で聞き返す。
「月影くんの下着とかも一緒に洗っちゃって大丈夫かしら?」
え!?っと黒兎は思ったが同居しているので今更気にしたところで意味は無い。もう相手の下着も見たし触ったし、今更自分の下着やら着替えがどうなろうとあまり関係ないのだ。
万が一何かあった時は自分で洗えばいいし。
「いいよ」
「それじゃ洗濯しておくわ」
「ありがとう」
洗濯機を回した雫が帰ってくる。1日目に部屋の位置や洗濯機の使い方などを教えていたので今日から家事全般は雫に任せることが出来る。
黒兎はしょうが焼き定食を作り終え、今から夕食だ。
「いただきます」
「いただきます」
「うん。これ、美味しいわ」
「ありがとよ」
「しょうが焼きのしょうが風味がとても絶妙でとても美味しい」
「ありがとう。でもこんな感情のない食レポ初めて」
「あなたの初めて奪っちゃった」
「いらない初めて奪われた。あと、それも感情ないし」
「仕方ないもの」
「なんで?」
「気づいていたでしょ?月影くん、私が辛い時代に心を保つため、感情を出すことを控えるようにしてしまったの、それが癖で抜けないだけよ」
たまに出てくる雫の昔話を聞いているとこっちまで悲しくなってしまう。でも黒兎は無理に感情を出すことはないと本当は思っていたりする。感情のない雫も、ある雫も結局雫。ならどちらでもいい。ただ社会に出た時に愛想を良くするためにも感情を出す練習はした方がいいと思っているが。
「まぁ冬矢はそれでいいんじゃないか」
「嬉しいことを言ってくれるのね」
「どんな冬矢も結局冬矢だ。ただ感情を出す練習はした方がいいかもな。だからこの1年せっかく俺がいるんだ、だからちょっとずつできるようになればいいんじゃないか?」
雫の表情は初めてあった時よりも柔らかい印象を受ける。それは、1日一緒にいて氷の女王と呼ばれる印象と別の印象を持ったからかもしれないが格段に今の方が好印象を受ける。
「ありがとう月影くん。これからよろしくね」
「ああ」
ピー
「お風呂が湧いたみたい。私貰っていいかしら」
「どうぞ」
「ありがとう」
風呂から出てきた雫はあのネグリジェを着ていた。白の清楚さにレースの大人っぽさを合わせ美少女が着ることでより引き立って見える。お風呂上がりの火照った体としっとりとした肌がより大人っぽく見せる。
「似合うかしら」
「ああ、似合うじゃないか」
「ありがとう、今日は疲れたわ。もう寝るわね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
雫は部屋に戻っていく。その後黒兎もお風呂に入り、すぐに眠気が襲ってきたので部屋に入ってベッドに潜った。
たった1日で雫の色んな面を見た黒兎は、これからの1年を不安に思う気持ちと楽しみに思う気持ちと両方を孕んだなんとも言えない気持ちだった。静かに目を閉じ今日のことを思い出す。
そして思い出したのは雫のネグリジェ姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます