第63話 合流
──そして、合流直後。
「僕に……考えがあります!」
ギルドへとやってきた僕は、冒険者達の怪訝な視線を一身に浴びながら、しかし構わず力強い瞳をリアトリスさんへと向ける。
リアトリスさんは僕の視線を受け、動揺からか瞳を揺らし、少しだけ視線を逸らす。
しかしそれも当然か。
何故ならリアトリスさんは危険を見越して僕を屋敷へと帰したのだから。そして、お父様達ならば僕を戦場へと向かわせる筈がないと、そう考えていた筈である。
なのに突然目の前に現れたかと思えば、考えがあると主張する。
動揺しない訳がないし、今回の行動は僕が火竜の一撃の皆さんを裏切った様なものであり、間違いなくショックでもあるだろう。
リアトリスさんは再び僕と視線を合わせる。
「レフちゃん、どうしてきちゃったの?」
僕だってリアトリスさん達を裏切る様な事、本当はしたくない。
しかし状況が状況な上に、もしかしたら事態が好転するかもしれない案なのだ。
伝えないという選択肢は無い。
「考えがあって、どうしてもそれを伝えたかったんです」
僕が譲らないのがわかったからか、その視線が僕の両肩に手をやるウィルさんへと向く。
「ウィル、貴女が唆したの?」
「違うよ〜。全てレーくんの意志。私はそれをちょっとお手伝いしただけ」
「お手伝いって、貴女状況がわかってるの!? 3000もの魔物が街に迫っているのよ! 少なくとも、いまだ幼くてレベルの低いレフちゃんが来て良い場所ではないの!」
「レベルが低い、幼い。……んー、まぁ気持ちはわかるけど〜。そんな常識は置いておいて、冒険者なら、最善の道を選ぶべきだと私は思うんだよねー」
「最善……?」
「うん、最善。私はレーくんの案なら、間違いなく今よりは状況が好転すると思っているよ〜」
言ってニコリと微笑むウィルさん。見上げて映ったその表情は、笑顔でありながら、妙に迫力がある。
その確信の籠った視線にか、リアトリスさんの瞳が揺れる。
と、ここでリアトリスさんの後方から足音が聞こえてくる。
視線をやると、遠くで傍観していた男がこちらへと寄ってくる姿が目に入る。
「ほっとけ、リアトリス」
言ってリアトリスさんの横へとやってくると、顎をクイっとしゃくり、
「てめぇのツレかなんか知らんが、こんな貴族の坊ちゃんの案を聴いてる暇はねぇ」
言葉の後、更にこちらへと近づくと、僕とウィルさんをキッと睨みつける。
瞬間──経験の無い圧力が僕を襲う。
「……ッ!」
その圧に、思わず僕の顔が強張る。
そんな僕の姿を目にし、男は口の端を釣り上げる。
「……ハッ、この程度の威圧にビビッてる奴が一体どう役に立つってんだよ。なぁ?」
言って周囲を振り返れば、大半の冒険者が似た様な雰囲気を醸し出している。
中には僕の事を知っているのか「大体こいつ雑草使いだろ」といった声が起こる。
リアトリスさんや、複雑な表情で静観していたグラジオラスさんがキッと声の主を睨む。
と、辺りに良くない空気が流れてきた所で、突然柔らかい男声が響く。
「良いんじゃないかな、話を聞いてみても」
「カルフさん!? ……でもよ!」
「アブチ君の気持ちもわかるよ、確かに時間に余裕は無い。けど、有用な作戦が無いのも事実だよ」
言葉の後、カルフさんと呼ばれた男が僕の方へと近づいてくる。
そして僕の眼前で、膝を折り、視線を合わせると、
「レフト君と言ったかな」
「……はい!」
「俺はカルフ。一応ランクA冒険者として活動している。よろしくね」
「ランクA──っは、はい! よろしくお願いします!」
僕の声にニコリと微笑んだ後、カルフさんは僕の目をじっと見つめてくる。
「…………?」
「ふむ、真っ直ぐ揺らぎのない瞳。未だ幼子なのに良い目をしているね」
「……ッ」
「よし、ひとまず話を聞こうか」
カルフさんの声を受け、リアトリスさんが口を開く。
「カルフさん……」
その声に、カルフさんはリアトリスさんの方へと視線を向けると、
「ひとまず案を聞いて、その後実家に帰しても遅くはないと思うんだけど、どうかな? リアトリスちゃん」
リアトリスさんは少しだけ逡巡した後、意を決した様子でうんと頷く。
「はい……」
「みんなもそれで良いかな」
周囲に向けてカルフさんが声を上げる。
その内容に、当然ではあるが、一部納得いかないという表情を浮かべる者もいた。
しかし、カルフさんの提案だからか、最後には全員が頷いた。
……よかった、とりあえず話を聞いてもらえる!
僕が心の内でホッとしていると、後方のウィルさんが突然耳元へと顔を近づけてくる。
「話聞いてくれるって〜良かったね、レーくん」
耳元で聞こえるウィルさんの優しい声。それは大変こそばゆいが、僕は何とか我慢をすると、ウィルさんへと視線を向け、
「はい! ご助力ありがとうございます、ウィルさん!」
「さて、それじゃあ話してくれるかな、レフト君」
「はい!」
言って頷いた後、僕は様々な感情の籠った視線の中でゆっくりと口を開いた。
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