第60話 想定外の訪問者
カルフさんの回復が終わり、彼が再び合流した。と同時に、同じくマユウの回復を受けていたドドラさんは再び戦場へ、そしてマユウは他冒険者の回復の為にアルトカの宿へと向かった。
という訳で現在ギルド内には、私とグラジオラス、カルフさん、アブチさんとアブチ団の団員3人の姿がある。
カルフさんが口を開く。
「とりあえず状況の確認をしようか」
言葉の後、カルフさんは現在把握している情報を話して行く。
まず今回の敵は、ランクFからランクBまでの魔物およそ3000体。
その内訳としては、先頭を行くのが低ランクの魔物を中心とした集団およそ2000体であり、その後方から高ランクの混じった集団が1000体続いている様である。
対してこちらの戦闘人員は300人から400人程度であり、加えてその大半がランクD以下との事である。
更に1時間程前の情報では、先頭集団の位置は街からおよそ13キロ地点にあり、進軍が時速3キロ程度である事を加味すれば、4時間程度の猶予しかない。
つまり、現時点ではその猶予は更に無くなり、およそ3時間程で魔物の軍勢が街へと到達するという訳である。
諸々の説明を終えたカルフさんは一拍空けた後、再び口を開く。
「と、そんな状況であると理解しつつ、何か作戦はあるかな」
その声にアブチさんは腕を組みうーんと唸り、
「作戦っつったってよ、そもそもスタンピードなんて初めてで対処法がわからん。普通なら分散して各個討伐だけどよ……」
「カルフさんの言葉の通りならそれは厳しいわね」
私の声にカルフさんは頷く。グラジオラスが普段とは違う落ち着いた声音で、
「カルフさんはスタンピードの経験はあるのか?」
「申し訳無いけど、流石に俺も初めてだよ。リアトリスちゃんは──同じか」
「えぇ、私達も初めてね。仮に経験があるとすれば、王国騎士団か王国魔術師団だけど……」
言いつつ私は何とも言えない表情を作る。
というのも、彼らは冒険者の様に自由では無いのか、いつも動き出しが遅い。つまりは彼らによる援軍は当分の間見込めないのである。
それを理解しているからか、私の声にグラジオラスはうんと頷くと、
「まぁ、いつも通りだな!」
「クソっ! あいつらいつもオセぇんだよ!」
アブチさんの嘆きに、カルフさんは苦笑いを浮かべる。
「要するに現状援軍は見込めない、つまりは俺達だけで対処するしかないという訳だ」
「……分散が難しいとなると、一度にある程度数を減らして負担を軽くするのがひとまずは最善か」
アブチさんの声の後、カルフさんが私の方へと視線を向ける。
「リアトリスちゃんの空間魔術はどう?」
彼らとは何度か共に戦っており、当然私のギフトについても表面的には知っている。
故に今回のカルフさんの言葉には、以前披露した事がある、空間魔術の能力の一つ、テレポートによる巨大な物体の投下と大量殲滅は効果的かという意味が含まれている。
私は小さく口を結んだ後、
「あれは転移するモノの重量とその距離によって消費魔力が変わってくる。私の魔力量を考えると、ある程度……そうね、数百体は討伐できるかもしれないけど、その後は魔力切れで私が使い物にならなくなるわ」
「……最善とは言い難いね。他の魔術は?」
「空間魔術には及ばないわ」
「んーやっぱりか。……グラジオラス君は──」
「俺も近接主体だからな! 広範囲に影響は与えられん!」
「そうか。なら他の案は──」
その後カルフさん主体で幾つか案を出していくも、私の空間魔術による大量殲滅を超えるモノは一つとしてでてこなかった。
と、ここでギルドへと入ってくる1人の姿が。
「兄ィ!」
言って駆け寄ってくる男はアブチを敬愛するアブチ団のメンバーの1人、ココルドさんである。
「……ココルド!」
アブチさんの声の後、ココルドさんはかなり慌てた様子のまま口を開く。
「先頭集団が街まで10キロの地点にやってきた! いよいよヤベェよ!」
ココルドさんの声に、カルフさんは顎に手をやり少し考える素振りを見せた後、
「……時間が無いし仕方がないか。ひとまずリアトリスちゃんの空間魔術である程度数を減らしてもらおう」
「それしかねぇな」
「おう!」
「……ええ」
──果たしてこれで対処できるのか。
返事をしつつも、しかし内心不安を拭えずにいると……ここで入口を囲む冒険者達から、先程までとは明らかに異なる騒めきが起こる。
──どうしたのかしら。誰かが来たのなら道を空ける筈だけど。
しかし冒険者達にそんな素振りは無い。
「何だ? こんな時によ」
眉を顰めるアブチさん。
私も不思議に思っていると、ここで冒険者の集団の方から、私の耳に甲高い少年の声が微かに届いた。
その声はあまりにも聴き馴染みがあり──
グラジオラスがピクリと反応を示す。と同時に、
「……まさか」
言って私は慌て入口へと向かう。
同時に冒険者達がバッと道を空けた為、その間を行く。
……いや、そんな筈は無い。
そう思いながら、バッと前方へと視線を向けると──そこにはここに居るはずのないレフちゃんの姿と、今まで行方の分からなかったウィルの姿があった。
「レフちゃん!? それにウィルも!」
私は驚きのまま駆け寄る。
「どうしてここに……マユウが家に届けたって……! ウィル、あなたまさか!」
私の強い視線を受けながら、ニコリと微笑むウィル。私が詳しく話を聞こうとそちらへと身体を向けると、ここでそれを阻む様にレフちゃんが一歩前に出てくる。
「リアトリスさん!」
そしてその勢いのままに、レフちゃんはキラキラと輝く瞳で私を見つめ、
「僕に……考えがあります!」
力強い口調でそう言うのであった。
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