第59話 作戦会議

ここまでのあらすじ(内容を覚えてる方は読み飛ばして大丈夫です)


リアトリスの付き添いで火竜の一撃と共に隣街へ。

→その間に、魔物の森へ行き、涎草を図鑑へと登録。

→諸々が終わり帰宅していると、オーガキングによる襲撃が。

→ヘリオを残し急いで故郷の街へと戻っている所で、空を飛ぶ女性(ウィル)と合流。街に大量の魔物が接近していると聞かされる。

→リアトリスとグラジオラスが先に街へと向かい、レフトとマユウは馬車でその後を追う(ウィルはレフトと何かを話した後、どこかへと飛んでいった)

→街へと着いたレフトとマユウ。ギルドへと向かおうと考えるレフトであったがマユウに咎められ、結果実家へと送り届けられる事に。


→本編へ。

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 レフちゃん達と別れた後、私、リアトリスとグラジオラスはすぐ様街へと向かった。


 元々街の近くまで来ていた事、馬車とは比べ物にならない速度で移動していた事もあり、10分もしない内に街へと到着。

 スタンピードが起こった事を知っているのか、どこか落ち着きが無い街の雰囲気を他所に、街の中へと入る。そしてその勢いのまま冒険者ギルドへと向かうと、そこには人集りができていた。


 冒険者ギルドの入口を囲う様に佇む人々。彼らは皆一様に武器や防具に身を包んでおり、冒険者であると断言できる。


 そんな冒険者の周りには幾人かの受付嬢がおり、冒険者達の誘導や事情説明などをしている。

 そこにギルド長やミラさんの姿は無い。恐らく別の対応に追われているのだろう。


 冒険者達は、私達の姿を確認すると同時に、ザワザワと騒めいた後、受付嬢達の指示に従いつつ入口を開けてくれる。


「ありがと」

「すまんな!」


 お礼を言った後、私とグラジオラスは中へと入った。


 ギルドの中は外とは違いかなり落ち着いた様子であった。

 それもその筈、数人の人影しか見えない上、皆静かに話し合いを行っている様であったからである。

 またかなり上等な武器や防具に身を包んでいる事から、ランクの高い冒険者しか居ないことがわかる。彼らは修羅場を潜っている事もあり、そう簡単には慌てないのである。


 と、ここで私たちの姿に気がついたその内の1人が、快活な笑みを浮かべると静寂をぶち壊す様な力強い声音を響かせる。


「お前らぁ! やっと来たかぁ!」


 声の主は私達と同じBランクパーティー、アブチ団のリーダー、アブチさん。

 アブチ団はアブチさんとそんな彼を敬愛する舎弟で構成されたグループであり、近接戦闘を得意とする者しか居無い事もあってか、バランスは悪いけど、それを数と気合いでカバーしているかなり異色のパーティーである。


「遅くなった!」

「お待たせ、状況は?」


 近寄り、現状について問うと、アブチさんはわかりやすく顔を歪める。


「幾つかのパーティーで足止めやら数減らしやら色々とやってるがダメだぁ。あいつ等足を止めやしねぇ!」

「けが人はいる?」

「あぁ、幸い死人はいねぇが、怪我人は多い!」

「もうすぐマユウが来るわ。あの子に回復してもらいましょ」

「ありがてぇ!」

「それで、こちらの人員は?」

「ランクBが俺達とお前らの2組。ランクCが5組、ランクDが12組、他300人程度と言った所だ!」


 ──かなり厳しいわね。


 緊急であった為仕方が無いとは言えるが、しかしその数のあまりの少なさに私は思わず眉を顰めてしまう。


「少ないわね」

「ちょうど皆出張ってた様でな!」


 同様に難しそうな顔をした後、アブチさんはその表情を少しだけ明るくすると、


「……だが、幸いにもカルフさんが街に居たんだ! 今は魔物の様子を見に行ってくれている!」

「あら、あの人がいるのね」

「それは心強いな!」


 私達の声にアブチさんはうんと頷く。


「あぁ、マジで運が良かったぜ! 多分もうすぐ……っとお、噂をすれば……!」


 ここで入口に集まる冒険者達が道を開ける。アブチさんに従う様にそちらへと目を向けると、そこには全身に軽い傷を負ったダンディーな色男が歩いてきた。──そう、彼が噂のカルフさんである。


「いつつ……」

「カルフさん! 火竜の一撃が到着したぜ!」


 アブチさんの声にカルフさんがその視線を上げ──私と目が合う。すると表情をパッと明るくし、


「……お、リアトリスちゃんじゃないか!」


 言ってグラジオラスには目を向けず、こちらへと歩み寄ってくる。


 実はカルフさんはかなり女にだらしないと言われている。実際にどうかは正直わからないが、こちらに一直線に視線を向けている現状、今までの彼の姿からあながち間違いでも無いと言える。


 しかし、そのある意味では欠点とも言える部分を補ってあまりある程の実力者であり、冒険者としては珍しく、パーティーに属さずにランクAの冒険者となった異色の男性なのである。


 こちらへと歩みよるカルフさんに少しだけ警戒心を抱きつつ、しかし私は柔らかい笑みを浮かべると、


「こんにちは、カルフさん。随分とボロボロね」

「ハッハッハ、いやいや流石にあの数相手だとね、そう上手くは行かないよ」

「とりあえず後でマユウに回復して貰いなさい」

「ありがたい、お願いするよ」

「それで、状況は?」


 カルフさんは先程までの朗らかな笑みを引っ込めると、少しだけ表情を難しくし、


「……芳しく無いね。どうも操られている様で、こちらの誘導に一切靡かない」


 ──操られている? 数千の魔物が……?


 にわかには信じられないと目を見開きながら、私は恐る恐る口を開く。


「数千の魔物を操る……そんな事可能なの?」


 カルフさんは目を伏せ首を横に振り、


「例えあの伝説のテイマーであっても不可能だろうね。これは別の力が働いていると考えた方が良さそうだ」


 伝説のテイマー……以前ヘリオがレフちゃんに話したランクAの魔物を従えたテイマーの事である。

 そんな凄まじい能力を有したテイマーであっても不可能な事を成す別の力──そんな異次元の力がこの世にあると言うの?


 私は再び困惑しながら、


「別の力って……」


 と声を漏らす。そしてうんとその力について考えてみるも、残念ながら一つも浮かばない。


 しんと静まり返るギルド内。ここでそんな静寂を耐えられないとばかりにアブチさんが大きく口を開く。


「いや、とりあえずその力とやらの事は後回しにしようぜ! 問題はどう対処するかだ!」


 うんと頷いた後、私はひとまず呟くように、


「正面からは……厳しいかしら」

「異種族間でも妙に統率が取れているからね。それにこちらの戦力があまりにも乏しい」


 そう言うカルフさんの声に私は思わずポツリと、


「……Aランクパーティーの1組でも居てくれたら話は違うのに」

「安心しろリアトリス! 俺達にはAランク冒険者のカルフさんが居るんだぜぃ!」


 言って尊敬の念を多分に含んだ視線をカルフさんへと向けるアブチさん。その視線にカルフさんはアハハと苦笑いを浮かべる。


「いやいや、俺にそんな派手な攻撃は無いからね。そこまで期待されちゃうと困るよ」


 ──派手な攻撃は無いと彼は言うが、実際はどうなのか私には、いやこの場に居る誰もが知らない。

 というのも、カルフさんはその戦闘方法を頑なに秘匿している上に、人前で戦闘する事も無いのである。


 ──人知れず魔物を討伐し、人一倍の成果を残す。故に巷では影狼と呼ばれていたりする。


 と。ここで再び冒険者が道を開ける。同時に聞こえてくる足音。

 その足音にグラジオラスはピクリと反応を示すと、


「……! きたか!」


 言って視線を入口へと向ける。そこにはマユウの姿があった。


「あ、マユウ」

「お待たせ」


 その姿にカルフさんは相変わらずの軽い口調で、


「おっ、マユウちゃんじゃないか」

「マユウ! 遅いぜ!」


 マユウはこちらをキョロキョロと見回した後、カルフさんの姿に驚いた様子を見せた後、


「ごめん」


 と声を上げる。そこに私は近づくと耳元へと顔を寄せる。


「……レフちゃんは──」

「すんなりとはいかなかったけど、とりあえず納得してくれた。親御さんの元に届けたから恐らく大丈夫」

「そ、良かったわ。後はこの脅威を振り払うだけね」

「ん」


 と、ここで幾度目か冒険者達が道を開け、そこから慌ただしく男が走り寄ってくる。──その身体にかなりの傷を負いながら。


 アブチさんは目を見開いた後、すぐさま駆け寄る。


「ドドラ! どうしたんだその傷は!」

「あ、兄貴。ほ、報告するぜ! 後方から更に1000体程の魔物が接近中! 中にはランクB以上の魔物も何体か混じってやがる!」

「なっ!?」

「……厳しいわね」


 私の声にマユウは大して表情を変える事無くうんと頷く。


「それでもやるしかない」

「……そうね。とりあえずマユウは怪我人の手当を。アルトカの宿に居るらしいわ。あ、先にカルフさん、ドドラさんの治療からお願いね」

「ん」

「悪いね、お願いするよ」

「すまん!」


 言葉の後、3人が離れていく。その姿を見送った後、ふぅと息を吐き私は再び口を開く。


「さて、私達は──」

「この窮地を乗り切る方法を考えなきゃな」

「とは言え、残された時間は少ないわ。ある程度決めたら早速行動に移しましょう」

「おう!」


 と言った後、アブチさんはそういえばとばかりに辺りを見回す。


「……ところで、ヘリオの野郎はどこだ?」

「帰宅中オーガキングに襲われて、その対処中だ! 直に合流できると思うぜ!」

「かー、オーガキングか! まぁ、あいつならまず大丈夫だと思うが、また厄介な敵が現れたもんだなぁ」

「それもピンポイントでね」

「──今回の襲撃と言い、あまり良い予感はしねぇなぁ」

「そうね……」

「どちらにせよ、あいつが合流すんのを待ってる時間はねぇからな。とっとと作戦考えちまおうぜ!」

「えぇ……」


 ──話し合いが始まる。


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あけましておめでとうございます。そして、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。


年が明け、ようやく落ち着いてきたので再び投稿ペースを上げていければと思います。


よろしくお願いします。


とりあえず明日も投稿します。

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