第52話 女部屋

 アクセサリーショップを出ると、既に日は落ち、辺りは薄闇に染まっていた。

 確かに街灯によりある程度の視界は確保されている。が、だからと言ってこれ以上出歩いてはヘリオさん達を待たせてしまう事になるだろう。


 そう考えた僕達は、当初の予定通りそのまま宿へと戻った。


 宿へ到着した僕達はそのまま中を進む。

 そして遂に火竜の一撃用の部屋があるフロアまで来た所で、僕達は女部屋の前でマユウさんが1人ポツンと立っている事に気がつく。


「あれ、マユウ」


 リアトリスさんの声に、マユウさんは顔を上げるとニコリと微笑む。


「ん、おかえり」


 ……なる程、お迎えをしてくれたのか。


 そう思いつつ、僕も笑顔を浮かべ、


「ただいまです!」

「ただいま〜」


 僕の声に、えらく上機嫌のリアトリスさんが続く。


「…………!」


 その様子を不思議に思ったマユウさんが首を傾げつつリアトリスさんを見つめ、そして彼女の頭に髪飾りがある事に気がつく。


 次いでバッと視線を僕へと向けた後、またしても何かを見つけたのだろう、マユウさんは「ま、まさか」とでも言いたげな愕然とした表情で、


「リア、それ……」

「レフちゃんに貰ったの〜! 手作りで、しかも初めてのプレゼントなんだって!」


 その言葉に、マユウさんはガーンとショックを受けた様子で、


「そんな……初めてはお姉ちゃんである私が貰うって決めていたのに……」


 ……いつの間にそんな事を決めていたのか。


 あと僕とマユウさんの間で『姉』という単語に対して何らかの認識違いがある様な気がする。


 とりあえず落ち込んでいるマユウさんをリアトリスさんと共に宥めた後、もしかしたらヘリオさん達を待たせてしまっているかもしれないと思い、


「そろそろ部屋に戻りますね」


 と言って男部屋に向かおうとすると、ここでマユウさんがそれがごく自然な事だとばかりに平然とした口調で、


「あ、レフト。今日私達と一緒の部屋だよ」

「……え?」

「えっ……!?」


 同じ「え」、されど異なる意味の「え」という声を上げる僕とリアトリスさん。

 僕は困惑した様相で、


「ど、どうしてですか?」

「ん。途中で冒険者の友人と久しぶりに再会して、そのまま飲みに行った。遅くなるからレフトはこっちで面倒見てって」

「な、なるほど……」

「マユウは誘われなかったの?」


 何やら興奮冷めやらぬと言った様相のリアトリスさんの声に、マユウさんは変わらず平静のまま、


「誘われた。けど──」


 一拍空け、


「リアとレフトを夜2人きりにするのはお姉ちゃんとして許せなかったから断った」

「え、そんな理由で断ったの?」

「……あと、単純にあの人達は暑苦しくてしんどい」


 ここで冒険者の友人が誰かわかったのか、リアトリスさんはアハハと乾いた笑いをした後、


「あーなる程ね。うん、それならマユウは英断ね」

「…………?」


 一体誰の事を話しているのか。とりあえず2人の反応からして、かなり変わった人であるのは確かであろう。

 何となく気になり、2人に聞いてみようと声を上げようとした所で、それよりも早く変わらずハイテンションのリアトリスさんが口を開いた。


「ま、そんな事よりも! 折角の3人だけの夜なんだから、早く部屋にいこ!」

「ん、行こう」


 言って部屋に入ろうとする2人。

 呆然とする僕。


 僕がついて来ない事に気がついたのか、2人は振り返ると、


「レフちゃん! さ、いこ!」


 言って片手ずつ僕の手を引き、部屋へと招き入れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る