第36話 ヘリオの誘い
5日後、再びヘリオさんが家にやってきた。
しかし──
何かいつもと様子が違う?
少しだけ違和感を感じながらも、ひとまずヘリオさんを自室に迎え入れる。
「悪ぃな、部屋にまで入れてもらって」
「いえいえ。ヘリオさんならいつでも大歓迎ですよ」
自室にある小さなテーブルに向かい合う形で座る。とほぼ同時にカミラがセイロウ茶を持ってきてくれたので、お礼を言い、一口飲んだ。
そして一息ついた所で僕は口を開く。
「それで、どうかなさいましたか?」
「実はな、再来週また1週間程街を出る事になった」
「指名依頼ですか?」
「あぁ」
「流石、忙しいですね」
相変わらず高ランク冒険者は大変だなと思っていると、ここでヘリオさんが少しだけ言い辛そうに口を開く。
「それでな、レフトさえ良ければだが……一緒に来てくれないか?」
「えっ!?」
「近くに幾つか有用な植物の群生地もあるし、数少ない植物系魔物の生息地もある。幅を広げるには良い機会だと思うんだ」
「いや、けど──」
お父様とお母様の顔が思い浮かぶ。
火竜の一撃の付き添いありでやっと街の外へ出る許可を頂けたのだ。1週間という長期間の外出を、果たして許してくれるだろうか。
そう僕が考えていると、ヘリオさんはうんと頷き、
「勿論わかってる。両親の許可だって得られるかわからねぇもんな。だからもしも可能なら……で良い」
「それは……僕の為ですか?」
「いや、まぁ勿論レフトの強化の為でもあるが、同時に俺達の為でもある」
「僕の付き添いがヘリオさん達の為に?」
「あぁ。……そうだな、ついでにこの話でもしておこうか。レフトは高ランク冒険者が個性的な人間が多いってのは知ってるか?」
「え、はい。噂程度ですが聞いた事があります」
「その噂通りでな、まじで一癖も二癖もある奴ばかりなんだが、その中でも俺達火竜の一撃は比較的まともな方だと思っている。……とは言っても、それはあくまでも高ランク冒険者の中ではの話でな、やっぱり個性的ではあるんよ」
ヘリオさんは人差し指を立てる。
「例えば、ジオ。あいつは重度の脳筋でな、大抵の問題を拳で解決しようとする。まぁ、最近はトラブルが起こらない様にと、交渉ごとを俺に任せる様になったからだいぶマシだけどな」
人差し指に加え、中指を立て、話を続ける。
「次にマユウ。あいつは昔から自分よりも年上の人間とばかり関わってきたからか、何かとお姉さんぶろうとする。最近だとレフトへ執拗に姉を押しつけるのがその例だな。まぁ、それ以外は感情をあまり表に出さない位しかこれという問題は無いからまだマシだな」
一拍置き、ヘリオさんは口を開く。
「そして最後に、問題のリアトリス。あいつは……まぁレフトも当事者だからわかると思うが、極度のロリショタコンでな、昔から幼子を眺めてはウットリとしていた。それでも自制心はある様で、今まで手を出す事は無かったんだが……」
ヘリオさんが「スマン」とばかりに苦笑を浮かべる。
「嫌じゃないので、大丈夫ですよ」
「そっか、なら良かったわ。んでよ、これは正直まだ良いんだ。……ただリアトリスにはもう一つ問題があってな」
「問題ですか」
「あぁ、とにかくあいつは気分屋なんだ。その時その時の気分で、コンディションがわかりやすく変わってくる」
ここで僕は過去のヘリオさんの発言を思い出す。
「そういえば以前も遅刻について話してましたね」
「あぁ、多分あれも気分によるもんだな。……ただそんな遅刻をよ、あいつここ最近は一度もしてないんだわ」
「良い事ですね!」
「お前のおかげだよ」
「え、僕のですか」
「あぁ。……もしかしたら、レフトが来るかもしれない。それが今のあいつのモチベーションなんだ」
好意をストレートにぶつけられているのは理解していたが、まさかモチベーションに影響する程だったとは。
僕は驚きと共に、ヘリオさんが何故僕を誘ったか理解した。
「その話をすると言う事は──」
「察しが良いな。そう、次の依頼がな、リアトリス個人宛てなんだ。それもかなり大規模な依頼でな──」
ヘリオさんは真剣な表情を浮かべると、
「おかしな話ってのも、そもそもこんな事いつまでも続けられないってのもわかってる。だが、今回だけ……よろしく頼む」
言って僕に頭を下げてきた。
確かに「リアトリスさんのやる気を上げる為」という理由ならば、向こうに僕を連れていくメリットがあるのだろう。
しかしこれは同時に、今までお世話になりっぱなしな皆さんの助けになれるという意味では、僕にとってのメリットとなるのだ。
加えて、新たな植物や魔物を登録できるかもしれないとなれば──断る理由など無い。
だから僕はうんと頷くと、
「わかりました。とりあえずお父様に聞いてみます」
──さて、お父様達は許可をくれるだろうか。
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