期待ハズレ

 そんな会話をしつつ、僕らはこの場から離れようとした……その時。


「おい、何者だ!!」


 聞き覚えのあるオッサンの声が響いてきた。そして階段の上から見覚えのあるオッサンが現れた。まぁ言わなくても分かるだろうけど……


「……」

「貴様、何をしている!!」


 こいつがリリス。元勇者である。


「……あー。もう帰るんで」

「何を言って……ってまさかお前! あの時のガキか!」


 どうもこの時点でやっと、僕の正体に気がついたらしい。


 そしてその事を知ったオッサンは、何か可笑しそうにゲラゲラ笑い出すのだった。


「ハハハッ!お前……何をやったか分かってるのか? 俺の家に忍び込んで窃盗……こんなの死刑どころじゃ済まねぇぞ?」

「……なら無かった事にすれば良いだけですよ」

「ハハ! やっぱシンのファンは頭のイカれた奴しかいねぇみてぇだな!!」


 そう言ってオッサンは僕の方へと飛び込んで来るが──遅い。動きが見え見えだ。


「死ねぇ!!」

「……っと」


 僕はひらりと最低限の動きで、オッサンの攻撃をかわす。


「グッ……舐めるなァ!! 【ジギ】ッ!!!」

「アイツ即死魔法を! 」


 続けてオッサンは闇を纏った空気の塊を、僕に向かって投げて来る……どうやらシンによると、アレが即死魔法らしいけど……


 ……遅くね? あんなん当たる方が馬鹿だろ……あ、そうだ。折角なら。


 僕は大きく息を吸い込んで……


「……フぅゥーー」


 吐き出した息で、その空気の塊の進行方向を変えてやった。


「なっ……は?」

「『は? 』はこっちのセリフだよ……期待ハズレだよ勇者さま。いや……ただのおじいさんかな?」

「貴様ァ……!!!」


 またオッサンは僕に斬りかかって来るが……やっぱり遅い。


「眠ってなよ」


 僕はその場で飛び上がって……回し蹴りをヤツの脳天にぶち込んでやった。


「ぶうっ!!!!!」


 そして勇者は地面にゴロゴロと転がっていき……気絶した。


「おいおい……今度は格闘家か?」

「いや、魔法を使うまでも無いかなって思って」


 それにこいつは『眠り無効』の耐性持ってるみたいだし……まぁこの辺は腐っても勇者って事か。相当腐ってるけど。


 勇者の解析を終了した僕は……転がっている連中の記憶を改変しておいた。


「ふぅ……これでよしっと。じゃあ行こうかシン」

「ああ」

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