ブーメランピエロ
「え、冒険者?」
「はい。今、仲間がいなくて困っていたんです。だからピエールさんが仲間になってくれたら、とても心強いなって!」
「なるほど……冒険者かぁ」
すると考えるようにピエールさんは顎に手を置き……続けてこう言った。
「それは……稼げるのかい?」
……ああー。やっぱりそれは気になるよね。まぁこの人相当お金に困ってそうだしな。
「えっと……はい。高ランクなら、結構遊んで暮らせる程度には稼げる……らしいです」
「……本当?」
「はい」
……嘘は言ってない。ただ、僕がそのラインまで辿り着いてないだけだ……そしてそれを聞いたピエールさんは立ち上がって。
「それは本当か……!? よし、やろうじゃないか!」
早っ。決断早っ。
──
それで結局ピエールさんは冒険者登録をして、僕と同じFランクの冒険者となった。
そして早速僕らはランクアップクエストを受注し、そのゴブリンが現れるとされる草原へとやって来ていた……のだが。
何かおかしい。いやその「何か」はもう分かってるんだけどね……僕はピエロ姿のままのピエールさんに声をかけた。
「あのピエールさん……装備くらい整えてくださいよ」
「はははっ! そんなモノを買うお金はないさ」
「高そうなスーツ着てるのに……」
「だってこれしか持ってないからね。はは!」
「……」
なんかピエールさんと会話してると、僕まで悲しくなってしまうなぁ……
「ええっと……じゃあ流石に武器くらいは僕が用意しますから」
「助かるよ。アルボーイ」
「……ピエールさん。武器は何を使えますか?」
するとピエールさんはその場でファイティングポーズを取って……
「拳、かな」
「冒険者舐めないでください」
「……」
当然だけれど、魔法も無しに拳ひとつでモンスターと戦うのは無理がありすぎる。リーチだって短いし……だから余程身体能力に自信が無い限り、拳で戦っていく事は不可能なのだ……
「じゃあお前パンチしてみろよ」
「なっ! 人形が話しかけてきた!?」
「今更だな……いいからやってみろ」
「見せてあげよう……!」
そう言ってピエールさんは、シャドーボクシングをし始めた……けども。
「……」
「……おっそ」
普通に……見える程度にピエールさんの放つパンチは遅かった。
いやいや……こういう時はめっちゃ早くて「コイツ……こんな才能が!?」ってなる展開でしょ。おい。
「どうかな?」
「えっと、他……の武器はどうですか。剣とか使えます?」
「握った事がないなぁ。それにアレって見た目以上に重いし、ボクには向いてないかもしれないね」
「……えぇ」
本当にどうしようか。というか、剣より簡単な武器なんて思いつかないよ……
「おいアル、コイツ仲間にしたの間違いじゃないか?」
「……」
口には出さないけど、それは薄々僕も勘づいていたよ。でも、僕から誘ったんだし……いや。ダメだダメだ。きっとピエールさんにも出来る事だってある筈だ。
ちゃんと考えよう。例えば……そう、得意な事から考えてみよう。
「……ピエールさんはピエロなんですよね。どんな芸をやるんですか?」
「え、ジャグリングとか……カード投げとかかな?」
「カード投げ?」
「ん、見るかい?」
僕がこっくり頷くと、ピエールさんはスーツの胸ポケットから、カードの束を取り出す。そしてそれを1枚取って、ビュッと空高く投げた……
かと思ったら、そのカードはくるくる回転して……ピエールさんの手元へと戻って来た。
「えっ!?」
「フフ、スゴいだろ?」
ピエールは満足気な表情をする……でも。確かにこの技は凄いけど、戦闘には使えないよな……と思ってると、シンが一言。
「おお。これならアレ使えるんじゃねぇか?」
「え、アレって?」
「待ってろ……出してやる」
言ってシンは魔剣に入ってきた。そして……
「ふっ……【
魔法を唱えた。するとポンと煙が出てきて……そこから木製のブーメランが現れた。
「なるほど、これなら……!」
「投げてみろ」
「やってみよう」
ピエールさんはブーメランを手に取り、大きく振りかぶって投げる……ブーメランはブンブンと音を立てて飛んで行って……
「……ほっ!」
曲線を描いてピッタリ、ピエールさんの手元へと帰ってきた。
「凄い!」
「やるじゃねぇか」
するとピエールさんはさっきよりも満足気な顔で……いや、自分でも驚いたような顔をして言った。
「……ふ、ふふ。『能あるハーピーは爪と翼を隠す』とはよく言ったものだな」
「嘘こけ」
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