負けられない戦い

 それを聞いて僕は少し気落ちしてしまう。


「シンそっくりの体……? そんなの作れないよ。だってシンは30年以上前に死んでいるんだし……死体だってない……」


 そこまで言うと、シンが割り込んできて。


「おい待てよ。俺の事をよく知ってるヤツがまだ生きてるんだろ?」

「え?」

「お前の好きな勇者だよ」

「……あ、そっか!」


 なるほど! 勇者様にシンの事を聞いて、きちんと細部まで再現すれば人間になれるかもしれない……! それはナイスアイデアだ!


 ……しかし問題が1つ。


「でも……今すぐには会えないよ?」

「なら会った時に頼めばいいだろ」

「うーん。そうだね」


 勇者様に会えるのはいつになるか分からないし。だからとりあえずシンの人間化計画はまた今度にして……


「ひとまず。今日は人形にしてもらおうよ」

「はぁ……仕方ねぇな」


 そう言う割にはそんなに嫌がってないシンだった。


「それで……デザインは勝手に決めていいよね? お金出すの僕なんだし」

「は?」


 ──


 そして僕は置いてある人形のサンプルを、じっくりと眺めていた……


「どうですー? 決まりましたー?」

「いや……まだです。意外とクオリティの高い物が多くて悩んでて……」


 僕がそう答えると、店員は少し微笑んで。


「ふんふん、よく分かってるじゃん。キミ名前は?」

「アルです。店員さんは?」

「あー。私? 私は……ドールって呼ばれてるよ」


 ドール? 何かそのまんまの名前だな……と思ってるとシンが。


「お前……もしかして『人間サイズの人形』なのか?」

「ふふっ。そうだよー?」

「えっ……えぇー!?」


 言われて僕はもう一度店員……ドールさんの全体を隅々まで眺めてみた。


 色白美肌でスラーっとしたスタイル。それで明るい髪色とは対照的に落ち着いたグレーの服が似合う……人だった。


 人形らしい所は全くない……いや、言われても気が付かない程だ。


 話には聞いてたけど、ここまで人に近付けるなんてな……少し怖くなってきたや。


 そしてシンは続けて言う。


「ほーん。じゃあお前は何かしらの『魔道具』だったワケだ」

「うん、そうらしいよ」

「らしい?」

「私、魔道具になっていた間の記憶が全く無いんだよねー。だから君みたいにペラペラ喋れるのが不思議でたまらないんだよ」

「ふーん」


 なるほど……じゃあシンがこんなにハッキリ喋るのは、魔力か何かの力が強いからなのかな……?


「ああ、ごめんごめん。話が逸れたね。それでアルさんはどんな人形が欲しいのー?」

「そうですね……『カワイイ系』ですかね」


 するとすかさずシンが反応してきて……


「は? 今お前なんつった?」

「……カワイイ系」

「はぁ!? お前、俺が中に入るって事忘れてねぇか!? 鑑賞用の美少女ドール買いに来た訳じゃねぇんだぞ!?」


 それでも僕は……僕は……!


 ────シンと『戦う』事を決めた。


「いいかシン……よく聞いてくれ。ハッキリ言ってお前の性格は良いとは言えない……いや、もっとハッキリ言おう! お前は性格がスゴい悪い!」

「……【悪魔的ディアボリック──】」

「うわっ!! 待て待て待て!! 変なの発動するな!!」


 するとシンは過去一と言っていいほど、不機嫌な声で。


「じゃあお前何でそんな事を……?」


 そう言った。いやいや、ここまで怒らなくていいじゃんか……!


「だから最後まで聞いてくれって! そんな性格悪いお前が輝ける方法……! それが美少女になる事なんだ!」

「やっぱダメだな、殺そう」

「だから!! そんな言葉も美少女から飛んできたら、僕も頑張れるんだから!」


 ……自分でも自分が何言ってるか分からなくなってきた。けど……ここで……ここで引く訳にはいかないんだ……!


「……つまり。俺の汚い言葉も、美少女ドールから飛んできたらご褒美になるって事か」

「ああ……そうだ」

「本当に気持ち悪いなお前」

「……」


 何だろう。そんな事自覚してた筈なのに、スゴい心にグサッときたな。


 ……でも。でも!!自分のお金で買うんだからさ!! 好きな人形くらい買わせてよ!!


 と、そんな所でドールさんが話に入ってきて。


「あー。盛り上がってる所だけどちょっとだけいいかな?」

「んだよ?」

「残念な事にこの店はね、男の人形は殆ど置いてないんだよー」





「……は?」

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