十五の話
毎日毎日、疲れに気づかないほど働いた。給金を気にする余裕もないほど働いた。食べなくても極限まで働けると思っていた。
歩いただけでこんなに疲れるとは思わなかった。
まるで泥の中を進んでいるかように、足がだるく重い。
李花は早い時間に布団に横になり、気絶するように眠った。
次に目を覚ましたのは、真夜中だった。月明かりが障子の隙間から差し込む。
もう少し寝ようと目を閉じた刹那、ぼそぼそと喋る声が聞こえた。
思わず身を強張らせ、耳を澄ませると、隣の部屋から聞こえてくる。
李花は志蓬を起こさぬよう静かに壁に近づき、耳を澄ませる。
にねんまえ、と聞こえた。未明の声だった。
「二年前、俺は
話し相手は、蓮伍のようだ。
李花は薄い壁に頬を押し当てて話に引き込まれた。
妻子に先立たれた、と未明は李花に明かしてくれた。詳しい内容を、蓮伍に話しているのだろう。
「その女は、腹に
隙間風が袖口に忍び込む。
李花は、未成長の胸にぽっかりと穴が空く気がした。
薄い壁の向こうにいるのは、李花の知らない未明だ。穏やかで、たまに口が悪く喧嘩っ
「女が身籠もったとき、この上なく嬉しかった。おそらく、人生で一番嬉しかった時期だ。身を固めようと決めて準備をしていた。それなのに」
言葉の続きは、李花にも想像できた。
ごめんなさい。李花は心の中で謝る。勝手に話を聞いてしまって、ごめんなさい。最後まで聞く勇気がなくて、ごめんなさい。
李花は静かに立ち上がり、
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