第一話 『凪原ハルトの受難』 その10
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
ヤケクソな気持ちになりながら、吠えて。体中、壊れそうになりながらも……オレはそのドアを引きちぎっていた。背中が痛いな。生身の右側も死ぬほど痛い……それでも、それでも。どうにかしたぞ。
「おい……七瀬川っ」
絞り出すような声で、彼女に頼った。
「うむ。任せろ。さあ、こっちに来るんだ」
「う、うん……っ」
七瀬川はオレに怯えた子供を抱き寄せて、その子を助手席から出してあげる。くるみ先生は、そのまま助手席に小さな体で乗り込んで、負傷者の様子を見る……。
「助けてあげてくださいね……っ」
「……任せなさい。お姉さん、医者なのよね……っ。うん……うん……なるほど。ねえ、薙原くん。今のより、ちょっと力使うけど、出来る?」
「やりますよ。あの子が、泣いていないから……今は、さっきよりも痛くない」
「……うん。お願い。ボンネットに乗って……背筋使って、このハンドルを上にひん曲げて。そうすれば、出血を止めて……すみやかに運び出せる。それが、最良ね……その。目立つけど」
「……いいんです。オレなんて、改造人間みたいなモンっすから」
「そういう自虐に、ずるい大人のくるみ先生は、頼っちゃうことにするわ。医者、やらせてね」
「はい。そういうことのためなら、この改造人間ゴッコも悪くないです」
「いい子だ。じゃあ、やって。こっちの女性は、私に任せなさい」
「了解です」
ボンネットに乗るさ。ああ、見られてる……ドアを引きちぎる人間なんて見たら、改造人間だって思うさ。構うもんか。怯えて、逃げ出しちまえ。オレは、どうせ人間もどきのバケモノだ。
左腕をハンドルに絡ませた。くるみ先生が、女性を押さえている。医者の選択だ。それでいいんだろう。オレは信じることにした。
「行きますよ」
「やって」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
吠えて、叫んで。
生身と機械にムチャさせる。
バキバギギギイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!
歪んだ車体がさらに歪み―――悲鳴の渦が巻き起こる。
「か、改造人間だああああああああああああああああああああッッッ!!!」
「ひいいいい!!!く、車、引きちぎってるううううううううッッッ!!!」
「だ、誰か!!誰かあ、助けてくれええええええええええええッッッ!!!」
まったく。
助けてくれって言いたいのは、こっちの方だ。
人間もどきでしかないんでね。こんな無茶なことしていたら体痛いし……そもそも、助けてやれよ……あの子さ、泣き叫んでただろ?……あの子のママ……死ぬかもしれないんだぞ?……どいつも、こいつも……っ。
「援護をお願いしますッッッ!!!」
凛然とした声が、悲鳴の渦を切り裂いた。
七瀬川だった。近くの事故車の上に乗って、慌てて逃げまどっている大人たちを睨みつけるようにして叫んでいた。
「我々は、三十三番高校の生徒と、その教諭です!!現在、事故に巻き込まれた民間人女性の救助を行っています!!サイバネの腕を持つ学生の献身により、救助活動は進んでいます!!しかし、重傷を負った女性を安全かつ迅速に避難させるためには、皆さんの協力が不可欠なのです!!……そこの作業服の方!!」
「お、オレ!?」
「力がありそうです!協力してください!!そうすれば、改造人間がこの場所に到達するよりも先に、誰もが安全に退避できる!!」
「お、おうっ。わ、わかったわ……うちのガキも……その子ぐらいだしよっ。や、やるぜ!!田島!!お前も手を貸せっ!!」
「お、おう!!」
「ご協力、ありがとうございます!!」
……仕切るの、上手いわ。
感心する。感心するし、ありがたいよ。七瀬川。君は、本当にリーダー向きだと思う。君みたいなヤツが正義のヒーローなんだろうな。だから、オレは……それを助ける、気のいい小市民をやるよ。
もう一度。叫んだ。
全身が痛いが……ムチャする。ムチャしたけど……その甲斐あって、ハンドルが完全に曲がった……。
「いいわよ、薙原くん!……これで止血処置も出来るし……運び出せる……」
「……頼みます」
痛みと疲労と、達成感で。オレはボンネットの上にあぐらをかいた。
「兄ちゃん、スゲーな」
「サイバネ義肢か……職場にも一人いるんだけどよ。こんな高性能じゃない」
「……自衛隊の最新式なんですよ……」
「なるほどな、まあ、あとは……オレたちに任せておけよ。運び出すだけなら、いくらでもできるからよ」
非・改造人間ナギハラ~73%生身で戦う徴兵され系男子高校生のサイテーな日々とか~ よしふみ @yosinofumi
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