第3話 VS レッドドラゴン
俺、VR16トンコンボイトラックに跳ねられて無事仮想死亡。オーバーキルカウンターが飽和して異世界間相転移。シフト完了だ。
「待たせたな、赤いトカゲ」
異世界転移した俺には馴染みの顔と世間話してお茶を飲むくらいの時間があったが、相転移外部の奴らにとってはほんの一瞬の体感時間だ。俺の身体がピカッと光ったくらいにしか感じられないはず。それが異世界相転移現象、ヴァーチャライザーの効果だ。
「一撃で沈めてやるぜ」
レッドドラゴンは刺々しいトサカを真っ赤に燃やして、大教会鐘楼塔のとんがり屋根に仁王立ちしてる俺を睨んだ。グルルル、とよく吠える犬みたいに唸り声を上げている。おうおう、イキってるイキってる。
首都防衛師団の連中も、攻め込んできた帝国軍の兵団も、激突間近の俺とレッドドラゴンの間を戦うどころではないようで戸惑い右往左往してる。おうおう、ビビってるビビってる。
とうっ。俺は跳んだ。
俺の右腕にはスチームパンクワールドが誇る蒸気鈍器、圧縮蒸気砲が装備されている。超圧縮されたスチームのパワーで金属の鈍器を打ち出すパイルバンカーみたいな近接肉弾戦兵器だ。
「おらあああっ!」
レッドドラゴンの意識をこっちに向けるため俺は叫んだ。低く唸っていたレッドドラゴンは太い首をすぼめて口を開いて俺に牙を剥いた。
レッドドラゴンの口の中が明るいオレンジ色で渦巻いた。やばい。フレイムブレスが来る。って、考えてる間に、轟音を響かせてレッドドラゴンはすべてを灼き尽くす業火を吐き出した。
宙を舞う俺の勇姿を猛烈な炎が包み込み、防衛師団の兵士たちの悲鳴、帝国兵士たちの怒号が沸き起こる。
熱っ! くないんだな、これが。
『耐熱属性発動。すべての熱ダメージは無効』
ヴァーチャライザーがウィスパーボイスで俺の耳に静かにささやく。
『熱ダメージを超蒸気圧へ変換。物理攻撃力上昇』
そうだ。俺は熱に強い奴らが生きるスチームパンクワールドに異世界転移しているんだ。特殊スキルの耐熱属性、熱ダメージ変換能力をヴァーチャライザーに取得済みだ。
「効かねえなっ!」
どんっと空中で身体をひねってレッドドラゴンの猛火を掻き消してやる。
俺のターンだ。ご自慢の炎のブレスを無効化されて驚いたように大口を開けているレッドドラゴンの顔面めがけて、俺の右腕の二倍は大きい圧縮蒸気砲を振りかぶる。
「グレイトフル・スチームパンク・カナタ・パンチッ!」
レッドドラゴンの顔面、眼と眼の間、まさしく顔面のど真ん中を圧縮蒸気砲で殴る。そしてトリガー・オン! ものすごい勢い蒸気を吹き出して周囲を真っ白く煙らせて、鋼鉄の拳が超蒸気圧で打ち出された。
硬い重金属と大質量の鉱物とがぶつかり合う芯のある低音が辺りに響き渡り、衝撃波が白く煙る蒸気を一気に吹き飛ばす。絶対の一撃だ。こいつを食らって再び立ち上がれる生き物なんてこの世にいやしない。そう、最強の生き物であるこの俺を除いて!
「まだまだあっ!」
さらにトリガーを握りしめる。蒸気射出口から圧縮された蒸気が吹き出して、レッドドラゴンの顔面にめり込んだ俺の右腕ごとジェット推進のように突き進んだ。カナタ・パンチは決して途中で力を抜いたりしない。一撃を食らわせたら最後、すべてを破壊するまでパワーを噴出させるんだ。殴る対象ごと地面を叩き割る!
俺のカナタ・パンチによって巨大な赤い竜は重低音を轟かせて地面に叩きつけられた。ばらばらに砕け散る灰色の石畳。茶色い地面が露わになって、ばきばきにひび割れて陥没し、もうもうと沸き立つ蒸気の白を纏う最強の俺。実に絵になる光景じゃないか。
俺はゆっくりと振り返り、呆然と腰を抜かしている帝国軍召喚士に決め台詞を叩きつけてやる。
「俺が勇者カナタだが、何か用か?」
重々しい機械音を奏でて鋼鉄の鈍器を再装填させる。超圧縮された蒸気が白い線を引いて熱をばら撒く。威圧感ごり押しにして凄んでやる。素直に逃げるなら逃がしてやってもいい。どの道、おまえらに勝ち目はないんだ。
侵略の主戦力であるレッドドラゴンを一撃で葬り去られ、一気に戦意喪失した帝国軍は撤退した。
俺の完全勝利だ。勇者カナタの最強伝説がまた一つ語られるだろう。
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