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「よう、義堂」

 そんなふたりに探りを入れるように、塾での中心メンバーである男子校で県一の進学校である京明の生徒が義堂に声を掛けた。

「ん、どうしたの?」

 義堂は朗らかな笑みで男子生徒を見上げた。

「お前ら、そんなに仲良かったっけ?」

「そうよ? ね」

 多賀に微笑んで、首を傾げる。それが可愛すぎて思わず見惚れていたが、男子生徒が怪訝な様子を見せたので、慌てて頷いた。

「ふーん、だったらさ、そいつも一緒に、ラウンジ行かね?」

 男子生徒は、義堂だけに来て欲しいようだったが、新たに急に浮上した多賀にも、興味がありそうだった。ちらり、と脇目で多賀の容姿を確認する。

「うん、いいよ。行こ」

 多賀の手を取って、義堂は立ち上がる。

「う、うん」

 引っ張られるように立ち上がり、彼女についていく。

 この塾には、生徒が軽食を取って休憩できるスペースが用意されていた。そこが、ラウンジと呼ばれ、仲の良い生徒たちが集まり、受験戦争に赴く前の閉塞感を共有し、不思議な連帯感を持つ場所である。

 そこに顔を見せると、既に何人かがテーブルにジュースや菓子を並べ、だべっていた。

「おまっと」

「おう。あ、義堂も来たのか。……そいつ、誰?」

 テーブルに肘を突いたまま、男子生徒が多賀に向かって言った。

「翼。私の親友よ」

「え、いつからそんなに仲良くなったんだよ」

「別に。前からだけど」

「うっそだー。だって、前までつるんでたとこ見たことなかったぜ?」

「わざわざ見せびらかす必要もないじゃない」

 他愛も無い会話を繰り広げながら、多賀は自分がこのメンバーと一緒にいていいのだ、という事実にただ驚いていた。

 いつも、遠くから眺めていたグループ。住む世界が違いすぎて、嫉妬や羨望などというものではなく、単純にいいなあ、と見ているだけで癒されていた。気楽で、青春を謳歌していて、自分が世界の中心だと信じて疑わない。

 そんな世界がこの世にある、ということが、ただただ眩しかった。

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