第三話 塾

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「私が、塾に?」

 多賀は驚きながら義堂を見た。義堂は、ティーカップを片手に優雅に微笑みながら、頷く。

「そう。貴女と私は、一心同体。どこに行くにも一緒でなくちゃ」

 そんな誘いの言葉に赤面したが、そもそもお金がないと思い直す。

「でも、お金が……。それに、一心同体なら、逆に一緒にいなくても、どこにいても思いはひとつなんじゃない?」

 痛いところを突かれた、というようにお茶目に舌を出してみて、義堂が笑う。

「冗談よ。ただ貴女に、一緒に塾に来て欲しいだけ。別に、今まで通りでしょう? 貴女がいなくちゃ、つまらないのよ、あそこ。お金は気にしなくていいし」

 そう言われると、断る理由もなかった。お金の面に関しては、このホテルしかり、一千万しかり、どこかに太いパイプがあり、心配する必要はなさそうだし、母を喜ばせるために通っていた塾だが、そもそもそんなに勉強が嫌いではない。

 そして、彼女のことだからこれにも何か理由と目的があるのだろう。義堂に、普通の受験目的の勉強が必要とは、どうしても思えなかった。

 楽しそうにする義堂に手を取られ、多賀は部屋を出た。残された安倉が、部屋の真ん中の椅子に座り、どこか暗い目で、ふたりを見送っていた。

 

 彼女たちが通う塾は、新幹線も止まる県最大の駅近であり、この近辺の高校生が集まる、巨大予備校だった。

 その中の最難関コースが、彼女たちが選択しているクラスだ。

 義堂は多賀と連れ立ち、腕を組んで、教室内へと入っていった。その組み合わせに、何人かが目を丸くしている。良い香りが、通り過ぎた場所を彩っていく。

 ふたりはくすぐったそうに笑い合いながら、奥の一角へと収まった。

「ね、翼、今日の先生、どう思う?」

「え、どう思うって?」

 教壇に立っている講師は、まだ若く、彼女たちにとっては最も近い、大人の男性だった。

「そんな、そんな風に見たこと無いよ」

「えー、ほんとー? 普通、一度はそんなこと考えるんじゃないの?」

 他愛も無い、歳相応の会話を繰り返し、何てこと無いことで笑いあう。本当に、一心同体の仲良しのように傍から見えた。

「こら、そこのふたり」

 教室の前から、声が聴こえる。講師が、こそこそと話をしているのに気付いて、注意をしてきたのだ。

「はーい」

 義堂は背筋を伸ばしてつんと澄ました顔を見せた。

 講師はそれに苦笑しながら、講義に戻る。

 義堂はもう当然のようにノートをとることに集中していた。

 こんな、普通の女学生のようなことを彼女とできる日が来るなんて。

多賀は喜びに思わず頬を綻ばせながら、シャーペンを走らせた。

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