②-3

「もう俺はいなくなったんだ! 生かされたって、何も嬉しくねえ!」

「そうかしら? 生きていれば、意見も変わるわよ」

「畜生……。てめえら全員、警察に捕まればいいんだ。こんな非道なことして、見つからねえなんて、間違ってるだろ!」

「あなたの言い方を借りれば、間違ってないから、捕まらないんじゃない?」

「な……!」

「なんて冗談はさておき」

 義堂は爽やかに笑う。彼女はどんなときでも何て素敵な笑顔を見せるのだろう。

「それくらいは、考えてるわよ。やる時は、常に障害と結末を想定してスタートするもの。ねえ、護」

 安倉は何も応えず、床に蹲っていた志摩の腹を蹴り飛ばした。嘔吐し、志摩は這いつくばる。

「それくらいにしといてよ? まだしなきゃいけないこともあるんだから」

 横目でさらりと言ってのけて、義堂はもう興味がないように多賀を連れて、外の景色へ目をやった。

「ねえ、翼」

「なあに?」

 多賀も、それに釣られて同じ方向を見る。いい匂いが、鼻をくすぐる。

「私がこれから、何がしたいか、わかる?」

 見下ろす夜景は、やはり先ほどと変わらず光が金色に瞬いていた。

 隣りに目をやる。その光を義堂の瞳がダイヤモンドのように乱反射させている。

「真実は……」

 初めて、真実と呼んだ。

「大人に、挑戦しようとしている? いや、大人だけじゃない、今の、社会?」

 義堂も多賀を向いて、にっこりと微笑んだ。

「流石、私の翼」

 それだけ言って、また外に目を向けた。

 多賀の目に映る横顔は、完璧な線を描いている。

 この人が、間違うはずが無い。

この人が望む世界は、どんなものなのだろう。それに変わったとき、この人の瞳に映るものも、変わるのだろうか。

自分もそれを見てみたい。

多賀はひとり決意を固め、義堂と同じ景色を、ただ見つめ続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る