①-4
突如、部屋の扉が開かれた。
大きな音に、男たちが肩を竦ませる。
「おい、まだ時間あるだろ」
ひとりが、虚勢を張っているのがありありとわかりながら、恐る恐る入口の方へと顔を覗かせた。
「ぎゃっ」
その体が、壁の向こうに引きずり込まれる。
「おい、どうした」
長崎が声をかけると、代わりに出てきたのは一瞬天井に頭が着くのではないか、と錯覚するほど巨体の大男だった。
無言で、長崎たちを見つめている。
「な、何だお前」
思わず、長崎が咥えていた煙草を落とす。それを、床に着く前に素早く拾い、長崎の口に戻すと、大男は多賀に乗っかっていた男を片手で引っぺがし、壁へと放り投げた。
「ひっ」
叫び声を上げる間もなく、蛙が潰れるような音がして、投げられた男は床に俯せに倒れた。
「て、てめえ、そいつの何かか? こいつは、自分から付いてきたんだぜ? 俺たちは何も――」
「お前の言い分など関係ない」
圧倒的な暴力の前には、正論も詭弁も言い訳も、ただ吹き飛ばされるのみだ。
二メートルはあろうかという身長に、鋼のような筋肉をつけた肉体は、ひとりの高校生を殴り殺すには充分な凶器だだった。
いや、死んだかどうかはわからない。ただ、そう確信するくらい、鈍い音を響かせ、頬を凹ませて、長崎は拳を打ち抜かれた。
多賀は、そんなことが起こっても、ベッドに横たわったまま、身じろぎすらしない。それを、大男が黙って見下ろしていると、急に華やかな香りが、入口から漂ってきた。
多賀が、その匂いにぴくりと体を動かした。
「ご苦労様、護」
そう大男に労いの言葉を掛けた彼女は、室内の惨状に何ら躊躇うことなく、滑るように部屋を横切り、多賀の横にしゃがみこんだ。
「多賀さん、貴女、弱いわね」
胡乱な目つきで多賀は隣りに座った少女を見つめた。
思わず、息を呑む。それくらい、美少女だった。
少女は、優しく微笑み、続ける。
「でも大丈夫。私を信じれば、貴女は強くなれる。自分を変えたくない?」
少女の言葉に、思わず頷きそうになる。
だが少女は、自分で言っておいて、ううん、と首を横に振ってみせた。
「でも、変えたりなんてしなくていいの。貴女は、貴女のままで、強く、美しくなれる。ただ、その事実に気付くだけ」
少女の笑みは、こんな場所に似合わないくらい、明るく、輝いていた。
「だから私を信じて」
伸ばされた手に、多賀は、思わず縋っていた。
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