④-2

「だよね」

 多賀が当然のように大きな笑顔を咲かせる。その思いを知っていたから、彼女は信藤に協力してきたのだ、とでも言うようだった。

「だったら、この結論を持って、あんたはどんな物語を描くつもりなの? 真実の行動を、賞賛するのか。それとも、それでも糾弾できるのか。できるなら、どうやってやるのか」

 信藤は大きく息を吐いた。何やら、胸に期するものはあるらしい。

「糾弾するよ。それが、僕の役目だ」

「へえ」

 まだ多賀は、馬鹿にするように鼻で笑う。だが信藤は、真面目な調子で返した。

「義堂の思いは、あますことなく描く。それをどう判断するかは、読んだ人次第だ。でも僕は、死ななくてもよかった、死なないで、彼女の信念を実現することはできた、ということを示す」

「対案を出す、ってこと?」

「そうだ。死者に鞭打つようで憚られるが、それしかない。彼女の思考・思想を上回る、彼女が生きていれば実現できたであろう、プランを出す。それで、読んだ人が、彼女が死んだことを、勿体無い、自分が代わりにやってやろう、と思ってもらえたら、僕の勝ちだ」

「へえ」

 同じ言葉なのに、今度はどこか嬉しそうに聴こえた。

「じゃあできなかったら負けだ」

「そうだ」

 力強い答えに、多賀の頬が緩む。

「いいね! じゃあ、絶対負けるなよ、男の子!」

「痛い!」

 背中を思い切り叩かれながら、信藤は多賀を睨んだ。だが、多賀の気持ちのいい笑いに、思わず彼も釣られてしまう。

「しょうがないな。まあ、見とけ。それが僕の、彼女への思いの集大成になる」

 信藤は口の端を上げ、楽しそうに目を光らせた。

「ん! じゃあ安心したから、帰るね」

 多賀はまた、窓へと足を掛ける。

「おい! なんでわざわざまた窓から――」

「こんな時間に年頃の女の子を部屋に上げて、家の人にバレたらどうするの?」

 信藤が、う、と口ごもる。そんなことを親に言われて喧嘩にならない自信がない。

「じゃね」

 猫のようにさっと飛び出てしまった。彼女の香りだけが残されていく。

 身を乗り出して外を見るが、もう姿が見えない。塀の内側にでも隠れて行ったのか。

 苦笑いをしながら、息を吐いた。ふわり、と煙草の匂いが漂う。

 多賀が隠れて吸ってでもいてその残り香か、それとも誰か歩き煙草で去っていったか。

 何故だか切なくなって、空を見上げた。

 夜空に、月が輝いていた。

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