④-1
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部屋に戻り、信藤は考えを整理しながらパソコンで義堂真実についての文章を纏めていると、いきなり家の窓ガラスから大きな音が聴こえた。
思わず身を竦め、窓を見つめる。何か、鳥でもぶつかったのだろうか、と思いながら、恐る恐る窓に近寄ると、目の前に灰色の物体が飛んできた。
「うわあ!」
顔を覆うが、窓ガラスが甲高い音をたてながらなんとかガードしてくれて、その大きな石は庭に落ちていった。幸い、今のでは割れなかったが、もし割れていたら大事だ。
「何をする!」
声を上げながら窓を開けると同時に、再び石が眼前に飛んできた。
「あ」
今度はガードする暇も、窓もなく、額に直撃した信藤は、ばたりと床に倒れこんだ。
「あのなあ……」
額を擦りながら恨めしそうな声を上げる信藤に、ベッドに胡坐を掻いた多賀はまあまあ、と嬉しそうに歯を見せた。
「まあまあ、じゃないだろう。下手すれば、大怪我だぞ」
「しょうがないじゃん。あんたも随分勝手なこと言って、私を怒らせたんだし」
何にも理屈になっていなかったが、信藤は溜息を吐いて、話を先に進めることにした。
「それで、どうして僕の家を知っていて、どうしてここに来た」
信藤の質問に、多賀は何を照れたか頬を掻いた。
「あんたの本心を聞いておきたくて」
「本心?」
信藤は眉根を寄せながら、問い返す。そんな信藤を、多賀は真剣な目で見つめた。透き通った瞳が、信藤を射抜く。
「あんたは、真実が死んでよかったって、思ってる?」
信藤が、息を呑んだ。
当然、彼女を崇拝している人間とすれば、死んでほしいわけなどない。しかし、彼女が彼女の信念を貫くために、これが究極の形なのだとしたら、この死を認めなければならない。
それを、多賀は突きつけている。
「……彼女は、永遠になった」
「答えになってない。それであんたはいいの?」
突き刺すような視線に、信藤の胸が潰れそうになる。
彼女を尊重するならば、その意思こそが最も重要で、つまり死を受け入れ、完成させることが正しいのだろう。
しかし、この調査を続けてきた信藤にとっての正しい答えは、どうも違うような気がした。
「……よくない。何があっても、死んでほしくなかった」
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