③-2

「はあ!?」

「つまり、思い出となれば、それは劣化しないし、裏切らない。しかも、その所有者の思い通りに変形までさせられる。生きていればいつか裏切るかもしれないが、死んでしまえば永遠に期待に応えた彼女のままで、保存されるんだ。そして、義堂が期待に応えてくれることは、その人間にとって人生で一番影響を受けたこととなり、彼女は永遠に生き続ける――」

 そう、いつしか彼女の中に、そんな欲望が芽生えてしまったのだ。

信藤の結論に、多賀は絶句しているようだった。ひと息に思いをぶつけた信藤は、鼻息荒く答えを待っている。

「もう、限界だったの?」

 多賀が、ぽつりと呟く。

「え? どういう意味だ」

「だから、もう期待に応え続けるのが限界だ、と思ったから、そうやって真実は死を選んだ、ってことなんじゃないの?」

「人を形作ることに責任を感じた可能性は、ある、と思ってる。でも、より究極な形を目指したいという方が――」

「そんなこと言っても、死んでしまったら新しい人間の期待には応えられない。より多くの人間の期待に応えることが生き甲斐だったとしたら、それが真実を苦しめた、ってことじゃない。違う?」

 多賀に言い返され、信藤は言葉がない。ただそれでも、何かを言わなければならない、ということはわかっていた。

「……そうかも、しれない。ただ、彼女の性格からすれば、僕は、より完璧を目指したんじゃないかと思うけどな」

「それでも、死ぬことはない」

「ただの失踪だったら、誰かを裏切ることになる。死こそが、全てを正当化し、思い出を美しく彩るんだよ」

「何それ――」

 多賀から、それ以上返事はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る