⑤-2

「何だ、急に」

 話しかけてきたのは、浦哲太。調子のいい奴で、特に部活には入っていないはずだった。

「義堂ってさ、うちのクラスではとにかく超いい奴で、人気者だったじゃん?」

 信藤の質問に応えることなく、嬉々として喋り出す。

「それがさ、何と他校の奴と遊びまくりで、援交までっていう――」

「浦!」

 急に、野村が声を荒らげた。下卑た笑いを浮かべていた浦は、びくりと体を竦ませる。

「な、何だよ――」

「亡くなった人に、そんなこと言うもんじゃない。それに、義堂はそんなことしない。それは、お前も知ってるだろう」

「そ、それは、そうだけどさ……」

 語尾が小さくなる。

「お前は、義堂に何かしてもらったのか」

 念のため、信藤は尋ねておいた。

 浦は頷いて、神妙に語る。

「ああ。ちょっと、家のことで悩んでるときに、アドバイスは貰ったけど――」

「だったら何で」

 野村が、詰める。

「いや、それが、俺は母親との確執だったんだけど、義堂もそういう経験あるっていうから、そん時は何も思わなかったけど、そういう話を聴いたら、後からそこに繋がるのかな、って。ほら、義堂の話を書くって言うから、そういう噂も役に立つんじゃないかと思ったんだよ、悪かったよ……」

 最後は、意気消沈としている。

「そういう、根も葉もない噂に惑わされないために、こうして取材をして、実際あったことだけを調べてるんだ」

「そうか、そうだよな」

「でも、念のため、その噂をどこで聞いたかだけ、訊いてもいいか」

「ああ、えっと、どこだったかな。多分、塾だよ。駅前の。塾だと義堂は進学校の西園寺の奴らと仲が良かったから、そこの誰かじゃないかな」

「そうか。頭には入れておく」

「必要ないさ。義堂は、そんな奴じゃない」

 野村は、ひとりで怒っている。悩みのない人間には義堂の光は届かない、というのは誤りだったようだ。

 そして、思いもがけず中位層からの情報と、他校の話を聞けて満足すると、信藤はその場を離れた。

 これで、このクラスはもういいだろう。

 自分の推測は裏が取れた。

 そして、次にすべきことも見えてきた。

 信藤は席に戻ると、取材ノートを開き、先ほど聞いた話を書き入れながら、思考を巡らせた。

 そこで気付く。

 ――もしかして、自分だけが、彼女の本質を見せてもらっていたのではないか。


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