夕暮れに照らされて
「いやー、楽しかったねぇー」
「だなぁー。でも流石に疲れたなぁ……」
夕暮れ時、窓からオレンジの光が差し込むバスの中で俺と礼二は満足気な表情で隣同士の席に座り、心地よい揺れに身を任せていた。
「ねー。次はもうちょっとゆっくりできるような場所にしようかー」
「次も……行ってくれるのか?」
「ん?あぁ、そうか」
そういや今日はデートっていう体で2人っきりのお出かけしてたんだったな。
「んー、どうしよっかなぁー」
デートって体はともかく、お出かけ自体は普通に楽しかったもんなぁー。
「おいおい、そこはいいよって言うところだろ」
「ふっふっふっ、私はそんな安い女じゃないのだよ」
ちっちっちと指を振りながらそういった俺は、何となくぽすんと礼二に寄りかかる。
「な、なんだよいきなり」
「んーん、なんでも。何となくこうしたくなっただけ」
「……そうか。なぁ千代」
「んー?」
「今日はその、楽しんでくれたか?」
「そりゃあ勿論。今までの人生でも最高クラスに楽しかったよ」
しかも今世だけじゃなくて前世も含めて、ね。
「そうか、それはよかった。実はな千代、今回こんな事したのは理由があってさ……ワケは知らないけど千代、お前最近何かにすっごい苦しんでただろ?」
「……っ!」
こいつ……普段あんな態度の癖にそういう所だけはキチッと見やがって…………
「だからさ、少しでも気を紛らわしでやりたくてお前が突然こういった雰囲気?シチュエーション?っていうのに持っていかれると混乱するのを利用させて貰ったんだ」
「ふーん……上手くやってくれたじゃんか。たまにはやるじゃん」
本当に上手い具合に俺の弱点を把握した上で見事に礼二にしてやられたという事が分かった俺は、頬を少し膨らましながらも素直に褒めてやる。
「はははっ、そうだろ?俺だっていつまでもお前に負かされてばっかりじゃないんだぜ?」
「ちょーしにのるな」
「いでででで……ったく、抓られなくたっていいだろ。んまぁそれでさ、千代」
「なにさ」
「俺はさ、他の誰よりも、なんならお前の家族にも負けないくらいお前の事を知ってると思ってるんだ。でも確かにお前の事を全部知ってるわけじゃない」
「……だろうね」
礼二の言うこともごもっともだ。俺は友達にも、そして家族にも秘密事が多すぎる。だからこの問題に皆を巻き込む訳にはいけない……俺一人で解決しないといけないんだ。
「お前が何に悩んでるのかは知らない、それに無理矢理知ろうとも思わない。でもさ、だからって一人で抱え込む必要はないんだよ」
「……!」
「俺だけじゃない、伊部さんに宫神宮さん、それに家族がお前にはいるだろ?話せないなら話さなくてもいい、知られたくないなら秘密にしててもいい、でも辛いなら甘えてもいいんだ」
「……そう、だね。うん、確かにそうだ」
何も助けるといっても話を聞いてもらう意外にもあるじゃないか。ったく、自分じゃ気が付かなかったが俺もいっぱいいっぱいだったのかもなぁ……
なんだ、たまにはこいつもいい事言うじゃないか。
礼二にそう言われた事で俺自身ココ最近の色々でいっぱいいっぱいになってたせいか視野が狭くなってた事に気付かされ、ふっと笑みを浮かべる。
「ね、礼二。さっきの話だけど……さ」
「ん?」
「また、二人でお出かけ行こうか」
「……!あぁ、そうだな!」
さっきまでよりも夕暮で紅く染まったバスの中、礼二に寄りかかったまま窓に映った礼二からそっぽを向いてそう呟いた俺の頬が紅く染まって見えたのは、夕日のせいかそれとも俺の心の変化か……この時の俺はまだ分からないのであった。
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