毎朝の準備

「ふぁー……んんぅ……」


 もー朝か……よく寝たぁー……


「しゃちたろー……」


 んんー……もふもふ……ふわふわぁ……このままもう一眠り行きたいー…………なーんて思っても……


「起きなきゃ、ね。んっ、んーー!」


 中学二年生女子の朝は早い。

 まだ日も登りきってないほのかに外が明るくなってきた時間帯、 目を覚ました俺はすりすりとシャチのぬいぐるみに顔を埋めた後大きく伸びをして、勢いよく跳ね起きる。

 そうしたらさっさと布団を畳み、枕代わりや抱き枕代わりにしていたぬいぐるみ達を元に戻し、プチプチと実は手作りなもふもふ水玉パジャマのボタンを外し下着姿になる。


 うー、さむさむ。さっさと着替えてしまおう。


 ブルりと朝の寒さに小さく身を震わせつつ、姿見の横にかけてある制服、白と紺のセーラー服を俺は手に取る。

 最初に肌着を着替えた後まずは野暮ったさを消すために膝丈より少し上まで上げたスカートに足を通し、一番奥のホックに止めた上でずり落ちないように調整する。

 そして次にセーラー服を手にとり、本来は開けてから着るであろう脇のファスナーをそのままにズボッと被り、袖に手を通してからぴっぴと裾を引っ張り整える。

 最後に特徴的な襟の下にスカーフを通し、襟の後ろからはほんの少しだけ見えるように調節しつつ左右対称になるよう形よく可愛くスカーフを結び、姿見の前でくるりと回る。


「よし、今日も完璧!」


 やはりこのやり方が一番スカーフを綺麗に結べるな。この黄金比を見つけるのに去年一体どれ程の時間がかかったか……


「さて、それじゃあそろそろ行きますか」


 今日は何を作ろうかなぁ〜♪ご飯にお味噌汁はいつも通りの定番として、昨日はお魚だったし今日は目玉焼きにでもしようかな?

 おじいちゃんと父様も目玉焼き好きだし。


「お姉ちゃん達は私の料理ならぱくぱくーって食べてくれるけど、兄には魚がいいって駄々こねられそうだ」


 まぁあんな高校生にもなってまだことある事に意地悪してくる兄なんぞどうでもいいがな。


「にしても……「あぁ!あの伝説のセーラー服を俺が着れるなんてっ!」って最初はあんなに興奮してたのに、慣れたもんだなぁ……」


 慣れとは恐ろしいものだ……っとと、そろそろ行かないと。母様に怒られちゃう。


 感慨深くそんなふざけた事を思い出していた俺は、ふるふると顔を振るといつも通り母様と朝ご飯を作るべく、腰の上近くまで伸びた髪を揺らして部屋を出るのだった。


 ーーーーーーーーーー


「おはよぉー。あれ?千代ちゃん今日学校なの?」


「うん?今日は学校でしょ?」


 だって俺の部屋のカレンダー土曜日だったし。


「そうなの?今日は日曜日だけど……」


「え?」


「え?」


 い、いや、だって俺の部屋のは……


 台所で母様と朝ごはんを作っていた俺は、起きてきた千胡お姉ちゃんにそう言われ、若干嫌な予感を覚えつつ冷や汗を垂らしながらチラッと壁にあるカレンダーを見る。

 するとそこにはバッチリと赤文字で日付と共に日曜日と書いてあり──────


 まさか!


「母様!」


「ふふっ、ごめんなさい千代。すっかり学校に行く気な貴女が可愛くって」


 だから分かってて放置してたって訳か!


「っー!着替えて来るっ!」


「はいはい、着替えてらっしゃーい。ふふふっ」


「千代ちゃんも朝から災難だったねぇ」


「お姉ちゃんは朝ごはんのお味噌汁無しね」


「なんでぇ!?」


 こうして、俺のある休日の朝はドタバタと、しかしゆっくりと穏やかに過ぎていくのだった。

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