夜の独り言

 時刻は午前三時、元いた令和の時代と違い街に点る灯りはほぼ無く、風で木の葉が揺れる音と虫の鳴き声だけが響き渡る静寂の時間……


「んぅ……んんー……あれ?」


 いつの間にか真っ暗だし……


「すー……すー……」


「んぅぅ……」


「ちよよん……みやみやと……うぇへへ……」


「くかー……」


 もしかして寝落ちした?というか叶奈ちゃんなんだその寝言、どんな夢見てるんだ。


「とりあえず……俺も寝よう。もう一回」


 大人でも寝静まり始めるそんな時間に珍しく起きてしまった俺は、そう言うともぞもぞと布団へ戻るものの、こんな時間に一度起きてしまったせいか、目が冴えてきた暫く布団で横になっていたが諦めて身を起こす。


「まだ眠気ある内は寝てようと思ってたんだけどなぁ。布団に潜って目を瞑ってたのにもう眠気のねの一角目すらねーもん」


 なーんて、愚痴を吐いてても仕方ない。いつもは九時に寝て五時か六時に起きてるし、多分寝落ちした時間的に三時か四時くらいでしょ。

 それならどうせお昼寝しちゃうだろうし、このまま起きてても問題ないかな。


「さて、そうと決まればせっかくだし何かしたい所だけど……何やろうかなぁ」


 暇つぶししようにも一人でできる遊びなんてこの時代じゃ大したもの無いしなぁ……まぁとりあえず。


「このままここに居ると起こしちゃうかもしれないし、とりあえず移動するか」


 そう言うと俺は布団から立ち上がり、何となく部屋に戻る気も起こらずとりあえず縁側に居ようと台所で麦茶の入った急須を冷蔵庫から出し、それを持って縁側に座る。


「んーしょっと」


 いやー、こんな時間にお茶とは。前世だとよくこの時間は徹夜して夜食食べてたもんだけど、この時代に生まれてからは初めてだ。


「実際、そんな事全くしないお陰か、今世だと普段の体調は凄くいいからなぁ。そう考えると前世の俺はだいぶ不健康だったに違いない……ごめんな前世の俺。ふぅ」


 冷えた麦茶が美味い。っていうか、いつも早寝だから気付かなかったけど星がめっっちゃ綺麗に見えるな。

 どんだけ綺麗なんだ昭和の空、改めて思うけど令和とは大違いだ。もう田舎も田舎、ド田舎に行かなきゃ夜空なんて見れなかったもん。


「ふっつーに生活してるけど、やっぱりこの時代は令和と色々違うな。だからこそ全然退屈しないで済むわけだけど」


 でもこういう時に限っては何もやることがないのがこの時代の少ない不便な場所だよなぁ。後は連絡が取りずらいとかそれくらいだし……


「実際、そこまで致命的に不便なんて事は一切無いんだよなぁ」


 ちびちびとお茶を啜りつつ、もううっすらとしか覚えていない前世の令和の記憶と昭和のあれやこれやを比べていた俺は、改めて思った事をそう呟き納得したように頷く。


「戻るアテも無いし、もうこの時代で生きて行くしかないって完全に諦めてたからか記憶からも消えかけてたけど、俺って元は令和生まれなんだよなぁ」


 だけど正直、不思議と戻りたいとも思わないんだよね。

 令和の時代と比べれば何もかもが不便な筈なのに……でも、きっと不便だからこそ皆で助け合って生きているから令和には無い深い繋がりが出来るのかもしれないなぁ。


「人と人との繋がりが濃ゆいって言うのかな?ふふっ、面白い違いだ。でもまぁ、とりあえずは」


 前世が令和であろうとどうであろうと、今の俺は花宮千代っていう昭和の時代に生きる一人の女の子なんだ。

 これからもこの人との繋がりを大切に、昭和の時代を俺は生きていこう。


「さ、明日というか今日も忙しくなるだろうしそろそろもう一回寝るとしますか」


 そう言うと俺は最後に夜空を見上げつつクイッと一口で麦茶を飲み干すと、急須を持って家の中へと戻ったのだった。


 こうして、俺達のお泊まり会は幕を閉じたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る