ウチの妹と隠し事

「はぁーーーー……癒しが欲しい」


 カチャリと音を立てウチの手放したシャーペンが机に落ちた後、グイッと伸びをしたままウチは真顔でそう呟く。


「仕方ない、夏だし嫌がられそうだけど癒しには変えられない」


 でも嫌がったりはしても結局毎回させてくれるのはやっぱり内心嫌じゃない、むしろ好きなのかもなぁ。


「ま、何はともあれちゃちゃっと行って癒しを得るとしますか。というわけで…………よーちゃん!遊びに来たよっ!」


「わぁぁっ!?」


「むぎゅー!」


 んー!このすべすべぷにぷにお肌!


「はぁーーーー……癒される」


 スパーンと勢い良く襖を開け、よーちゃん事妹の千代の部屋に入ったウチはそのままちっちゃ可愛いよーちゃんに抱きつき、スリスリと頬ずりをする。


「千保お姉ちゃんくるしいー、あついー、はーなーしーてー」


「やーだっ♪」


 こーんなに可愛いのに離したいと思う?いやない、絶対にない、ありえないし有り得てはいけない。


「というかよーちゃん、ぬいぐるみまた増えた?」


「うぐぅ、そ、それは……」


「それにクッションも増えてる」


「うぐぐぅ……」


「大好きな母様にバレたら怒られるぞー?」


「ぐぅ」


「へへへ♪よーちゃんかーわいっ!でもよーちゃん一人で街に行ったりするのすごいねぇ」


「ふふーん♪私記憶力いいもん!迷子になんてならないもーん」


「そうだねー。よーちゃんはほんと凄いねー」


 いつの間にかまた増えていたぬいぐるみやクッションの事を言われ、腕の中でドヤ顔をしつつも大人しくなったよーちゃんの頭をそう言いながら優しく撫でるのだった。


「にしてもよーちゃん、なんでそんなにぬいぐるみとかが好きなの?」


 ウチもぬいぐるみとか好きだけど、こんな部屋の四分の一くらいを占拠する程は集める気ないしなぁ。


「だって……かわいいじゃん。それに可愛いの好きでもこんな事女の子じゃなきゃ全力で出来ないし」


「ふむふむ」


「可愛い物好きの……としてはこの機会に思う存分楽しみたいし」


 ん?上手く聞き取れなかった。元……とか言ってた?


「ごめんよーちゃん、途中聞き取れなかった。なんて言ったの?」


「ずっとスリスリしてるから聞き逃すんだよー?」


「ごめんごめん。それでなんて言ったの?」


「私としてはって言ったのー」


「そうだったんだー」


 ウチは適当にそう返事を返すと、この嘘つきな妹が寂しがらないようもっとスリスリしてあげる。だけどウチは知っている。


 この子は昔から色んな事を隠している。


 それがお茶碗を割ったといった些細なものか、人を殺めたといった重大なものか、それは分からないがウチにはそれを聞き出す事は出来ない。

 なぜなら……


「よーちゃん」


「んゆ?なーに?」


「私は……んーん、なんでもない」


「えーなにそれー」


 この可愛い妹の隠している事は、今の楽しく暖かな家庭を壊してしまう、そんな秘密をこの妹は抱えているとウチは思う。


 でも、でもな。よーちゃんがどれだけの秘密を持ってたとしても、ウチらは家族なんや。だから……


「……?千保お姉ちゃん?」


 絶対に、一人で寂しい思いはさせないからな。


 その決意と共に、ウチはぎゅっとよーちゃんの細く小さな体を抱く手に力を入れるのだった。

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