親戚によるナウい問題

「はぅぅ……」


「……おちついた?」


「うん、落ち着いたー」


「だったら離してー!」


「あら、それは嫌よ?だって千代ちゃん可愛いんだもんっ!」


「ぬゃあああ!」


 暑いっ!苦しいっ!


「はーなーしーてー!」


「パタパタしてるのかーわーいーいー!」


 ぎゅうぅっと仁奈ねーちゃんに抱きつかれ、俺が手足をぱたぱたして暴れていると、ひょいっと脇を持たれ母様に抱きかかえられる。


「可愛いのは分かるけどうちの娘をあんまり苦しませないであげてくれるかしら?」


 助かったぁ…………にしても母様……イケメンっ!あ、降りろと、はーい。


「えへへ、ごめんなさい」


「それで?貴女の家からこの家まで遠いでしょうに、何かあったの?」


「実は……親にお見合いの席を用意されちゃって……」


 お見合いかぁ。そっか、そうだよね。この時代ってまだお見合い結婚とかが主流な時代だもんね。んで、まさに今こんな丁度ナウい問題が飛び込んできたら……


「「おー!」」


 まぁ、うちの姉達は興奮するわな。


「仁奈ちゃんそのお話聞かせて聞かせて!」


「ウチもウチも!なーちゃんのお話聞きたい!」


 目をキラキラ輝かせグイグイっと仁奈ねーちゃんへと詰め寄る姉二人を前に、俺は苦笑いを浮かべつつそう思うのだった。


「はいはい二人共、興味津々なのは分かるけど大事な話なのよ。邪魔をするなら出ていきなさい」


「「ごめんなさい」」


 謝るの早っ!いつもなら千胡お姉ちゃんはともかく千保お姉ちゃんはもっと謝るの渋るのに。


「えーっと……話してもいい?」


「水をさしちゃってごめんなさいね。ゆっくりでいいから」


「うん……」


 俺の姉達に邪魔されたが、改めて母様にそう言われた仁奈ねーちゃんはそう返事をすると、一口だけお茶を飲み続きを話し始める。


「そのお見合いなんだけど、相手の人が私の家がある所の名家でね。そこがお父さん達がお世話になった所だから私も断れなくて……」


 あー、なるほど。親がお世話になったから恩返しって意味もあるし、親の顔を立てなきゃだから断りずらいのか……


「それで、その御相手さんは?」


「……」


「……」


「……その、正直、嫁ぐかもしれない相手にこんな事、とは思うんだけど…………生理的に無理!」


「あ、あらあら……」


 あ、あまりの気迫にお姉ちゃん達が固まってる。それどころか母様ですら気圧されてる感じになってる!


「なんなのあの人!髪の毛とかお肌とか油でギッタギタで顔も出来物いーっぱいで汚いし!お腹は出てるわフケは飛び散るわ気持ち悪い笑顔浮かべてるわ!鼻息も荒いし私の胸とお尻ばっかり見てくるし!」


「に、仁奈ねーちゃん?」


「なんなら太り過ぎてて私よりおっぱい大きいし!別にいい男じゃなくてもいいのよ!至って普通の人なら私だって付き合って見るくらいはするわよ!でもあの人は無理っ!」


「仁奈ちゃん……お、落ち着いて……」


「落ち着けないわよ!なんでよりにもよってあんな男なのよ!だからってお付き合いもせずに蹴ったら父さんになんて言われるかわかんないし……」


「なーちゃんどうどう」


「それに私まだ大学生よ!?「女は大学なんて行かなくていい」って反対押し切って頑張って頑張って何とか合格出来たのに!せっかくの大学生活をあの男に使えって!?そんなのぜぇっっっっったいに嫌ー!」


 そう、仁奈ねーちゃんは今年二十歳になるピッチピチの大学二年生なのである。それなのに話を聞く限りお世辞にも標準とは言えない男性と付き合えと言われている。


 これは……流石に女心が分からない俺でも絶対に嫌だなぁ……いやむしろ逆に中身が男だからこそ普通の女子より嫌なのが分かるかもしれない。


 ぜぇぜぇと息を切らしながら心の奥底に溜め込んでいた事を吐き切った仁奈ねーちゃんを前に、俺はそんな事を思いつつ、先程より引きつった苦笑いをうかべていた。


「スッキリしたかしら?」


「はい……一恵さんありがとうございました」


「いえいえ、お見合い相手、お付き合いする相手、それはこの先一生添い遂げ続けるかもしれない大切な御相手ですもの」


 おぉ、流石母様説得力が凄い……


「それに、女の幸せは家庭を築いた後にやって来るものです。たった一度の人生、女としての幸せを掴めないだなんて事は同じ女として看過できません」


 そう言う母様の姿はなんだかとても美しく、同じ部屋に居る俺含めた四人が見惚れたようにその姿を見ていると、母様は立ち上がり部屋の隅にある黒電話に手をかける。


「え、えと……一恵さん?」


「大丈夫、私に任せて」


 そして母様はそう言うと黒電話のダイヤルを回し、どこかへと電話をかける。そして数秒後、多分仁奈ねーちゃんのお父さんであろう人と母様が電話で会話を始めた。

 最初は電話の向こうで怒ってる様子が伝わってきたものの、直ぐに落ち着き、続いてだんだん焦り始め、最後には意気消沈しているようだった。


「ですので、はい。ありがとうございます。それでは」


 カチャン。


「よし、これでもう大丈夫ですからね」


「あ、ありがとうございます……あの、一体どんな事を……」


「ふふふっ、貴女のお父さんはちょっとばかり私に借りがありましてね」


 オウ……母様恐ろしい子……


 こうして花宮家を少しだけ巻き込んだ、従姉妹のお姉ちゃんによる騒動は幕を閉じたのであった。

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