ちょっと変わった親子喧嘩の末路

「ダメだ」


「どうして?何がダメなの!?」


 まだまだ過ごしやすいある日の夜、いつもなら夕食後の片付けも終わりテレビの音の流れる和やかな雰囲気の居間に甲高い声の怒声が響いていた。

 そしてその声の主は────


「だから何度言えば分かるの!?このままじゃダメなんだってば!いつまでもこのままじゃ潰れるんだよ!?」


 何でわかんねぇかなぁこの親は!


「幾ら千代の提案でもこればっかりは変えられない。それにこういうのは男の仕事だ、千代の目につく場所に置いた俺も悪いが女が口を出すものじゃない」


 フーフーと息を荒くして顔を真っ赤にした俺だった。


「そうですよ千代。確かに千代のお話は考えさせられる事もありますが、こればっかりは女が口を出すものではありませんよ」


 母様まで!俺は……!俺はこのままじゃダメだって分かるから、この先も皆で楽しく過ごしたいから口を出したのに……!


「……なのに」


「「?」」


「それなのに!女だから女だからって!俺が女だから話を聞いてくれないのか!?これだけきちんと順序建てしてきちんと説明したのに!」


「千代!待て!」


「千代!?どこに行くんですか!?」


「うるさいっ!父様も母様ももう知らない!私出てく!」


「「千代!」」


「さよなら!」


 バンッ!


 何かがプツンと切れちゃぶ台の向こうに居る両親に背中を向けた俺は、勢いそのまま居間から飛び出し音を立てて襖を閉める。

 そしてこっそり俺と父様のやり取りを見てたであろう呆けた顔の姉達の横を通り過ぎ、俺は下駄を手に外へと飛び出したのであった。


 どうしてこんなことになったのか、それは今日のお昼頃へと遡る────


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「んー……きついー」


 頭痛いー、お腹痛いー、そして今回は腰も微妙に痛いー。


「散々キツイキツイと前世でも今世でも聞いてたし、去年から不定期とはいえほぼ毎月来てるし改めてキツさは分かってたけど、まさか腰まで痛くなるなんてなぁ……」


 前世の俺よ、女性の皆さんは毎月こんな痛みを味わっていたんだぞ。もしまだ生きてるなら今後はもう少し気を使え。


 地球温暖化もまだまだ進んでおらず、五月末だというのに涼しい気候のお昼時、久しぶりの女の子の日にトイレで苦悶していた俺は喉の乾きを癒そうと台所へ向かっていた。


「ほんっと、早く終わらないかなぁ。この装備品のゴワゴワ感とか出てくる時のランダムな感覚とか絶対慣れる気がしないよ。とりあえず水飲んだら何かで気でも紛らわ……ん?」


 なんか見た事ない本がちゃぶ台の上にあるな、なんだろ。


「この達筆な筆で書いてある文字は父様のだな。えーっとナニナニ「花見屋経営方針帳」って、もしかしてこれこれからのウチの店の予定って事か?」


 だとするとこれから父様が何をやっていくか知るチャンス!


「それにこれを改善したようなのを考えれば気も紛らわせれる!よし、そうと決まれば!」


 台所へ行く道中、居間のちゃぶ台でそんな素敵な物を発見した俺は先程までの死にかけた様子はどこへやら、颯爽と自らの部屋へと戻りノートを持ってきたのであった。

 そして書いてある事を読みながらノートへ要点をまとめたり簡略化する事数時間────


「ふぅ、やっと読み終わった……」


 流石父様、よく考えて未来戦略が練ってあった。まぁ兄に花見屋を継がせたい年とかはともかく、まさか俺とか姉達の結婚まで予想建てされてるとは思ってなかった……けど。


「これは、ダメだよなぁ……」


 父様の予定している花見屋の経営方針に俺が下した結論は「この帳簿通りではダメだ」という結論だった。


 確かに書いてある通りこのままの経営方針を維持しつつ品幅を増やしていって顧客を増やすのはいいと思う。

 でも前世の史上通りなら昭和六十年、後十数年後の1985年頃には大型ショッピングモールが乱立し始めるはず……そしたらこう言ったウチみたいな店は潰れはしなくても厳しくなってくる……


「これは……代替案が必要だな」


 当初の気を紛らわす目的はどこへやら、俺は父様の作ったその経営方針とは違う新しい経営方針を作り始めたのだった。

 そして夕飯後暇してた父様に話した所、分かってたとはいえいい顔はされず、俺も女の子の日でイライラが溜まってた事もあり議論は言い争いへとヒートアップし……


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「飛び出して来たはいいものの……」


 これからどーすんだよ……


 今に至るという訳であった。


「とりあえずここまで来ればしばらくは見つからないでしょ。勢いでやったとは言え少し頭を冷やすには丁度いいかもな」


 さて。それじゃあいつまでも宿無しって訳にも行かないし、とりあえず今晩を過ごせそうな場所でも見つけるとしますか。


 こうして、俺の今世初となる家出の幕が開けたのであった。

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