楽しみだった修学旅行

 ガタンゴトン……ガヤガヤ……ガタンゴトン……ワイワイ……


「すぅー……すぴぃー……」


『皆様ー、本日は当修学旅行列車をご利用頂き、誠にありがとうございます。この列車は──────』


「ふかっ!?」


「あ、ちよちー起きた。おはよー」


「お、おはよー綺月ちゃん。もしかして私……寝てた?」


「うん。列車動き出して直ぐにぐっすりー」


 うるさ過ぎないガヤガヤという騒がしさと心地よい揺れの中、列車のアナウンスにより目の覚めた俺はキョロキョロと辺りを見回した後、綺月ちゃんにそう言われる。


 まじかぁ……幾ら楽しみにしてたからっていつもよりたった一時間、といっても十時に寝たのにこのザマか……前世の夜更かしし放題の俺からは信じられないな。


「そういや、今はどの辺なの?」


「えーっと今はねぇ────」


『当列車はまもなく山形、山形に入ります。左側の窓からは海が見える場所もある為────』


 へー、もう山形か……山形ねぇ……


「た〜べるんご〜たべるんご〜ヤマガタりんごをたべるんご〜♪」


「ちよちー?突然歌いだしてどうしたの?」


「いや、なんか歌わないと行けない気がして」


「……?でも楽しみだね!今日から一泊二日の修学旅行だよ!」


「ふふふっ、そうだね。いっぱいいっぱい楽しもうね!」


「なんだなんだ?なんだか盛り上がってるな二人共!叶奈もまぜろー!」


「きゃっ!んもーかなちー、怒られるよー?」


「うぇへへへへへへへ」


 そう。

 いよいよ今日から二日間、俺達は隣の県である山形県で楽しみにしてた一泊二日の修学旅行を行うのであった────が


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 って意気込んでたのに……


「まさか初日のお昼に倒れるなんてなぁ……けほっけほっ!」


 おでこに濡れタオルをのせ、苦しそうにケホケホと咳をしながら、苦しんでいる俺の姿が学校の取っていた宿の一角にはあったのであった。


「花宮さん大丈夫ですか?」


「はい、なんとかー」


「間に合わせとはいえ落ち着いてくれたのならよかったわ」


 ほんと、心配おかけ致しました。


「私は花宮さんが体弱いのは知ってたし、お昼くらいから花宮さんがふらふらしてるの見て直ぐに対応出来たけど、ちょっと油断してたわ」


 あぁぁぁ、先生をしゅんとさせてしまった。何とかしなきゃ、えっと、えーっと……


「そ、そんな事ないですっ!元は私の体が弱いのが原因だし、それに幾ら楽しみだったとはいえ昨日夜更かししちゃった私が悪いんですっ!」


「ふふふっ、庇ってくれるの?ありがとうね花宮さん。でも夜更かしは看過できないなぁ……何時まで起きてたのかしら?」


 うぐっ。


「その、いつもは八時か九時には寝てるんですけど……楽しみで眠れず多分十時くらいに……」


「そ、そうなのね。若いって凄いわね……こほん。大丈夫よ、全然夜更かしじゃないから安心して」


「はーい」


「さってっと……花宮さん汗かいて気持ち悪いでしょ。拭いてあげるから」


 美人先生に体を拭いて貰えるだと……!?なんだか新しいイベントだ!これを体験しない手はない!


 先生からのそのお誘いに躊躇なく乗った判断力が欠如している俺は、モゾモゾと寝巻き代わりである体操服を脱ぎ、そのまま一緒にキャミソールも脱いで上半身裸になる。


「……幾ら今先生だけとはいえ、女だけでもそんなに簡単に脱いじゃダメよ?」


「ふゃい」


 わかった、わかったから、早く体拭いてぇ……


「にしても、花宮さんお肌ぷにぷにすべすべね。それに髪もいつ見てもサラサラで光沢があって……若いって羨ましいわぁ」


 そういう先生も相当若い気がするけど……いや、でも「先生さんじゅうななさいでーす」とかいうパターンも……


「本当に羨ましいわ。ねぇ花宮さん、甘いもの好きかしら?」


「すきですよー」


「それは良かった。なら花宮さんさえ良ければだけど、今度のおやすみ、花宮さんの風邪が治ってたら一緒にお出かけに行かない?」


「ふぇ?」


 な、なんだそのイベントはっ!俺の今まで仕入れて来た様々な漫画アニメゲーム知識のどこにもそんなイベントは記載されてないぞ!?


「せっかくの修学旅行なのにこんな事になっちゃったからね。その代わりって訳じゃないけど先生と一緒に遊びに行ってくれない?」


 ど、どんな展開になるか全く予想つかないけど……でも。


「も、勿論いいですよ?」


「ふふふっ♪じゃあ決まりね。さて、それじゃあ花宮さん。そろそろ皆が戻ってくるので先生は離れますね。何かあったら直ぐに呼でくださいね」


「は、はーい」


「それでは」


 パタン


「な、なんだったんだ……あれ」


 担任の先生が襖を閉め立ち去って行った後、突然のお誘いに一人部屋に残された俺は呆けた顔でそういうのであった。

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