年に二回の総集会

「父様ここが?」


「あぁそうだよ。ほら、はぐれないように手を繋い出おこうか」


「はーい」


 ある日の夕暮れ時、少し古ぼけた他の建物より明らかに古そうな外見の小さな建物に、きゅっと父様と手を繋いだ俺が手を引かれ入って行くと……


 ガヤガヤワイワイ……ワヤワヤガイガイ……


 おぉ……凄い、これは……凄いぞ…………!


「はははっ。どうだ千代、凄いだろう?」


「はいっ!はわぁ〜……!」


 建物に入りしばらく歩くと、そこには建物の外見からは想像のつかない程広大な議場と、その議場を埋め尽くさんばかりの人々がそこには広がっていた。

 これが一体なんの集まりなのか、それは…………


 これは、これは凄すぎるぞ!この街の商人の三分の二、いや、全員が来てるんじゃないか!?


「これがこの街に住む商人が一堂に会する年に一度の大会合「真摯な商人達の会合」その真商会だ」


「凄いね父様!」


「ふふふっ、そうだろう?さっ、弘紀が席を取ってくれているはずだ。一緒に探そうか」


「はーい……ん?」


「どうした千代?」


「いや、何時もの感じなら私達の分の席は用意してありそうなもんだと思ってたんだけど……」


「確かに千代の言う通り、ウチの店はこの街の顔みたいな扱いをされてる。だから多方面にも顔が利くし、普段はそれを最大限利用している。だがな」


「ふぇっ!?」


「これは真商会「真摯な商人達の会合」だ。この場では老いも若いも、どれだけ人脈や歴史があろうと無かろうと、商人であれば全てが平等な会合だ。それを忘れるな、千代」


「は、はい……分かりました」


 分かりました、充分、存分に、完璧に分かりました……分かりましたけど……


「分かったならいいさ、さて席を……ん?どうした千代?」


「あの、その、こんな人が居る場所で……」


「……?はっ!す、すまん!」


 父様に両肩をガシッと捕まれて父様に真剣にそう言われていた俺が恥ずかしそにしてぼそっとそう言うと、周りから色んな目で見られている事に気付いた父様は勢いよく離れる。


「よ、よし!それじゃあ弘紀を探すとするか!」


 耳を赤くしながらそう言う父様に引っ張られつつ俺達が兄の取っていた席に行くと……


「えーっと……兄さん……?」


「弘紀……お前なぁ……」


「なんだよ父さん、ちゃんと席取っておいただろ?」


 いや、だからって……そんな露骨に俺の席だけ取らないとかあるか!?


 そう思わず頭を抱えてしまった俺と父様の前には自分の席と父様の席、つまりは二席だけしか取ってない俺の兄、チクチク頭のオールバックな弘紀がいたのだった。


 確かに、確かに兄さんはお姉ちゃん達とはあいっ変わらず仲悪いし、俺とはお姉ちゃん達以上に険悪な関係だけどさ……


「ここまでやる必要があるかぁ……!」


「あのなぁ弘紀……お前この場に来るのも今年で三度目だろ。お前が今何やってるのか分かってんのか」


「分かってるも何も千代は女だろ?なら別に席なんて無くても後ろに立ってりゃいいだろ」


 こんのクソ兄はぁー……!


「確かに家系を支える為に稼いで来るのは男だ。だがな、だからといって蔑ろにするのはバカのやる事だ。以前からお前はその毛が強かったが流石にそろそろ治せ」


「ふん、別に治さなくてもいいさ。俺は長男だからな、店を次ぐのは俺だし、どうしてもここに座りたいなら千代は床にでも座って────」


「お?千代ちゃんじゃないか!」


 言ってやったと言わんばかりのドヤ顔で話していた兄さんの言葉を遮り、そう元気よく話しかけて来たのは顔馴染みの魚屋のおじちゃんだった。


「魚屋のおじちゃん!あ、この間のお魚美味しかったです!」


「そりゃあよかった!また買っておくれよ!さて、見た所座る所が無いみたいだな」


「えと、その、はい……」


 なんだか申し訳ないなぁ……


「うし、ちょっと待ってろ!おいお前ら、花宮さんとこの千代ちゃんが座る所ねぇってよ!そっち詰めろ!」


「千代ちゃんきてんのか!?おーい誰か椅子持ってきてくれ!千代ちゃんが座る所無いらしくてなぁ!」


「そりゃあいけねぇ!」「詰めろ詰めろ!」「直ぐに座布団持ってくるぜ!」「ここら辺綺麗にして千代ちゃんが見やすいようにしようぜ!」「それいいな!おい誰か千代ちゃんに菓子!」


 わわわわわっ!なんか凄いことになってきた!


「はっはっはっ!千代は人気者だなぁ」


「あはははははは……」


 こうして、暫く経った後、真商会が始まる頃にはお菓子とお茶の着いてきた、座布団がたんまり敷かれた席へと俺は座らされていたのであった。

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