女の敵、襲来

「そろそろお昼にしようか、千代」


「はーい」


 休日の午後、最早休みの日の日課となった父様のお店のお手伝いをしていた俺はそう父様に言われ、いそいそとあと少し残っている品物を棚に出し始める。


「本当、千代ちゃんはいい娘だねぇ。お宅が本当に羨ましいよ。うちの娘なんか「私の服父さんと一緒に洗わないで」だなんて言うようになって……」


「ははははは、うちも二番目の娘には同じような事言われてますよ。そのうち千代もあんな風に……」


 ならない、ならないから安心せい我が父よ。


「あはははは……っとと」


「おっと、大丈夫か千代」


「ありがとうとーさまー」


「なんだか今日は調子悪そうだな。大丈夫か?」


「うーん……」


 確かになんか朝から少し頭も痛いし気持ち悪いし……


「確かに調子悪いかも?」


「それならそうと早く言ってくれ、お前に何かあったらどうするんだ。ほら、後は父様がやっておくから終わるまでちょっと裏でゆっくりしてなさい」


「はーい」


 ふらふらとコケそうになった所で俺は咄嗟に支えてくれた父様にそう言われ、内心「また風邪かなぁ」と思いながら裏の休憩室に行こうとする。

 するとそこで────


「ちーよーよん!」


「お買い物に来たよー」


「うーっす」


「あ、三人共。いらっしゃーい」


 お店の入口からいつもの三人が俺へと声をかけてきたのであった。


「おや、千代のお友達か。来てくれたのは嬉しいが……大丈夫かい千代?」


「うん、多分大丈夫」


「ちよよんどうかしたのか?」


「なんか元気なさそうだけどー……」


「うんー、ちょっと体調悪い気がしてねー」


「えっ。それって大丈夫なの?」


「無理だけはするなよ?昔っから体弱いんだから」


 んー……正直休みたい所だけど、寂しいから嫌……じゃなくて、せっかく三人が来てくれたからね。


「そこまで酷くないから大丈夫だし、少しでも危ないって思ったら休むから大丈夫だよ。それで、三人共今日は何をお求めかな?」


「んー、今日はねー────」


 ガラガラガラ!


「失礼するよ」


 うげっ!この声は……!


 そんな風に少し無理をしながらも俺が二人の相手をしようとしていると、そうガラス戸の開けられる音と共に最近よく聞く声が耳に届き、恐る恐る後ろを振り向くと……


「ほーう、ここが花宮さんのお店か。古くさいが……ふむ、悪くない。それで、花宮さんはー……っと、いたいた!花宮さーん!」


「なんであんたがこんな店に来るんだよ!というか笑顔でこっち来るな腕を広げるな無言で来るな!」


 きもいきもいきもいきもいきもい!そのだらしない顔がなんかきもい!


 そこには最近手を替え品を替え俺に何とか接触しようとしている神井がおり、俺は思わず背中を壁に打つくらいに全力で後退してしまう。

 そしてそんな俺と神井の間に父様はすかさず入り込み、その首根っこを掴むと────


「おいてめぇ、どこのガキかしらねぇが人様の娘に何やろうとしてんだ。あぁ?」


「ひぃ!」


「「「……はっ!」」」


「ちよよんのお父さん!そいつ一応叶奈達と同じ組の子なの!」


「確かにちよちーが関わるとおかしくなるけど、悪い子じゃないの。だから離してあげて?」


「確かにそいつ千代に変な事しそうで許せねぇけど……許せねぇから殴りてぇけど……でも、だからって手を出すのはまた違うから」


「三人がそう言うなら……でももう二度とこんな事すんじゃねぇぞ」


「はいぃ!」


 愛しの娘に手を出されたからか、珍しく本気で怒りかけた父様に掴まれていた神井は、なんとか叶奈ちゃんと綺月ちゃんのおかげで解放され、すぐさま逃げ帰ったのであった。


 ひぃえぇぇ……あんな父様初めて見たかも……っ!


「うっぷっ」


「ったく……大丈夫だったか千代?……千代?」


 や、やばい……気持ち悪いかもじゃなくてマジで気持ち悪くなって来た……


「ちよよん?」


「ちよちー顔色凄い悪くなってるよ!?大丈夫!?」


「ら、らいじょーぶ、なんかお腹と頭も痛くなってきたけどこれくらい少し寝れ……ば……」


「千代ちゃん!?」


「千代!?」


 やばいな、これ、もう、立ってるの、すら、キツ……い……


「気持ち悪い……お腹と頭が……あっ!かなちー!」


「はいっ!」


「急いでちよちーのお母さん呼んできて!お父さん!」


「は、はい!」


「なんでもいいから毛布とか暖かくなるような物を!後出来れば鎮痛剤も!」


「お、俺は……」


「れーくんはちよちーについてあげてて!」


「お、おう!千代、大丈夫だからな、いまお前のお母さんが来るからな」


 何……この世の終わりみたいな顔してんだ……大丈夫だって……少し……寝れば…………治る……か……ら……


 そんなにも体に負荷がかかっているのか、くらりとした立ちくらみを感じつつ、俺は泣き出しそうな礼二の顔を見ながらゆっくりと瞼を閉じたのであった。

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