幼子同士水入らず
カコーン
「いやぁー、今日は本当に助かったよ礼二ー」
お風呂に入れないなんて勘弁願いたいからねー。
「……」
「わわっ!これって液体シャンプー!?ほえー……お風呂持ちの家って凄い……ねね!礼二使ってみてもいい!?」
この時代に産まれてから液体シャンプーなんて初めて見たし!
「…………」
「……?どうしたの?さっきから静かだけど……」
俺何かやっちゃったかな?
「ど、どうもしてない……」
「ならなんで────」
「千代ちゃんと一緒だからだよ!」
もこもこと湯気が立ち込めるいかにも昔といったお風呂の中、お風呂が熱いせいか、それとも恥ずかしいからか、顔を真っ赤にした礼二のその叫びが響き渡る。
「えー、なんで一緒だから黙っちゃうの?私と礼二仲良しなのに」
「だってその、俺は男で、千代ちゃんは女の子だから……」
ん?何を言ってるんだ?俺は男で……
「……あっ」
そうじゃん!俺が男だったの前世じゃん!やっべぇ、今の俺女なのに素で礼二の事同性だと思ってた!
「えーっと……ごめんね?」
「ううん、気にしないで」
さっきまでの無邪気さはどこへやら、改めて自分の今の性別を理解した俺は、まだ前世の影響からか隠したりはしなかったものの、なんだか気まずくなってしまう。
「それじゃ……えと、体洗お?」
「う、うん」
はぁ……らしくない、動揺してしまってるぞ俺。
どうしてこうなったのか、それは一時間ほど前に遡る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「千代、貴女礼二君とお風呂に入りなさい」
「別にいいけど……なんで?」
「えっ!?」
俺が躊躇なく母様に言われた事を了承したのを見て驚く礼二を横に、女の子は女の子らしくと日頃口煩く言う母様が言いそうにないことを聞いた俺はそう聞き返す。
「ち、千代ちゃん!?」
いつもの母様なら「嫁入り前の女の子が肌を男性に見せるなんてとんでもない」って言うのに……なんか怪しい。
「いかにも怪しいって言いたい顔ですね。でも残念、母様はなんにも企んでいませんよ。ただ礼二君なら大丈夫かなって」
えぇぇ……なんだそりゃ。末娘とはいえ俺もあんたの大切な娘だろ、そんな適当でいいのか母様……
「ふふふっ、大丈夫ですよ千代。今は分からなくても貴女が大きくなれば自然と分かるわよ」
「?」
「それじゃあ千保をお願いします。いい子にしてるのよ?」
「流石に人の家には迷惑書けないよ」
「千保ちゃんは私に任せて、千胡ちゃんとゆっくり浸かってきてくださいね」
こうして、俺は首を傾げながらも礼二と共にこの夜はお風呂に入る事となったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「むぅ……」
なんとかならないかなこの微妙な雰囲気……なんとか…………なんとか……そうだ!こういう時は古来からあるあれで────!
「ねぇ礼二」
「な、なに?」
「背中、洗ってくれない?」
「はひゅっ!?」
「ほら、昔から親睦を深める……えっともっと仲良しになるには裸の付き合いをするに限るって言うし!」
「千代ちゃんと……も、もっと仲良しに…………やる!」
おぉう!?思ったより食いついた!
ザバンと音を立て湯船から出た礼二に、どこかのアニメで聞いたセリフを小学二年生に伝わるように言った俺は驚きつつも、タオルと石鹸を渡してお互いに体を洗い始める。
「前は自分で洗えるし、背中だけお願いね?」
「うん。分かった」
お、力強い返事だ。でも────
「女の子のお肌は繊細なんだから、ゴシゴシ強く洗うんじゃなくって優しく丁寧に洗ってね?」
「優しく丁寧に……がんばる」
「ん、お願いね」
軽く洗う上での注意点だけ伝え俺は礼二に背中を預ける。
「んんっ……」
やばい、思わず声でてしまった。
でもいつもお姉ちゃん達とか母様に洗われてるのと、礼二に洗われるのは全然違う……!なんというか、力強い、けど優しい、そんな感じが……
「ど、どう?痛かったりしない?」
「ううん、全然そんな事ないよ。なんならすっごく気持ちいいくらいだよー」
俺はそう言うと、途中「すべすべ」やら「柔らかい」やらそんな礼二の声を聞きながら、礼二に背中を委ねていたのだった。
「それじゃあ次は私が洗うね!」
「う、うん。お願い」
ふふふふふふ、ここ数年で母様によって身につけられたとても気持ちのいい「女の子の体の為の優しい体の洗い方」で洗ってやる!
そう礼二の後ろで手をワキワキさせながら、さっきまで礼二に背中を洗ってもらっていた俺は、にやぁっと悪い笑みを浮かべて礼二の背中を洗い始めるのだった。
「おぉ……」
まだ子供だから違いなんて無いって思ってたけど……やっぱり男の子、触ってみると自分の、女の子の体とは違いがあるもんだ。
「どう?礼二」
「なんかこちょばゆい」
「我慢せい。洗い始めたばかりなんだから」
「う、うん」
「そういや礼二」
「な、なに?」
「なんで私と話してる時そんなにどもる様になったの?」
「そ、それは────」
「小学生になるまでは普通だったよね?」
「……」
「何かあったの?…………礼二?」
なんか反応がないけど……
「礼二?」
「ふひゅう」
「うわぁっ!?顔真っ赤!礼二のぼせてる!?ちょっ!かあさま!おばちゃーん!礼二が!礼二がー!」
こうして、幼馴染水入らずのお風呂は幕を閉じたのだった。
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