天国の手前にある喫茶店

作者 響ぴあの

不思議な喫茶店を舞台とした、不思議な「一期一会」。

  • ★★★ Excellent!!!

 不思議な喫茶店を舞台とした、不思議な「一期一会」。

 一通の手紙。それは届く宛のない、手紙である。
 だがそれが、ある奇跡のために必要な『鍵』でもあった。
 彼は手紙を読み確認して、許可を与え、アドヴァイスする。

「一時的な快楽にしかなりませんし、今は変わりませんよ」

――と。

 驚くと同時に、すとんと腑に落ちる、ラストシーンが訪れて、
「そうだった。これって『どんでん返し』だっけ」なんて、つぶやくことになる。

 とにかく。前半の手紙の情報量が凄い。これは細かいとか丁寧という意味ではない。ボリュームは勿論ある。だがそういう意味ではない。人の死と別れに接し、心のうちに沸き起こってくる複雑で処理しがたい感情を、やさしく静かな語り口で淡々と積み上げてゆく。それがその文章に接する者の、それこそ胸の奥に達するほどのリアルでもって迫ってくるということだ。

 当然だ。人の死とは「悲しい」とか「寂しい」という単語で処理できるものではない。そこを敢えて真正面から向き合った上で、届けようという確固たる意志を持って綴られた文章だからこそ、その悲しみの範囲の外にいる人間にまで「揺らぎ」が(ごく一部であるにせよ)届くのだ。

 まず、これを書ききった作者の覚悟に敬意を表したい。

 ただ、ここで問題となるのが体験を下敷きにするからこその鮮烈さと重さだ。
 むき出しな感情でなく、制御され彫琢された読みやすい文章になっているものの、それがそのままに示されたのなら、その重さによみびとたちは耐えられない。自分自身を守るために、敬して遠ざけることになる。

 それはあまりにもったいない。

 だからこその後半。

 整えられた、少し不思議な風景を構築して、すべるようなソフトランディングで物語を着地させた。

 それでこの宛名のない手紙は、ようやく、心の中に何かを残す『物語』になった。

 だから、わたしはこのお話に関しては。むしろ最初の覚悟よりも、最後の心遣いを評価したい。

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