第263話 「初大会⑤」
予想通り、最初に
攻撃を防いでから前方に目をやるけど、王者の姿はゴーレムの脚に隠れて見えない。互いに肉眼では見えない中、マナだけ一方的に感知されて攻撃を受けるわけだ。
続く光線をまた盾でしのぐ。それから、見える位置へ回り込もうかと考えた。しかし、遮蔽がなくなったからって、俺に確実に有利に働くとは考えにくい。他にも、まだ何か攻撃手段はあるだろう。ある程度、攻撃の算段がついてからだ。
それに、確認しておきたい事項が1つあった。走り回りつつ盾を構え、どうにか1本は足で避けられるように慣れたところで、俺はその確認に入る。いったん双盾を解いて、黄色い
盾の張替えが間に合わず、光線が盾を透過してバリアを打ち破る。すると、敗れたバリアが再展開され、場内に歓声が満ちた。
『王者、まずは1点先取! 挑戦者、盾の色を変えてみせましたが、王者は的確に合わせてきましたね』
『どうも、挑戦者は先ほどこちらに着いたばかりなので、王者がマナの色を見ていることを知らなかったようですね』
『なるほど。では、今回の色変えは様子見であると?』
『序盤ですからね。あえて1点くれてやって、確認にいったのでしょう』
よくわかっておいでだ。断続的に攻めてくる光線をしのぎつつ、俺はそんなことを思った。
相手に色が見えている以上、光盾が一枚では心もとない。それに、撃たれてから作るのでは、対応が間に合わない可能性がある。だから、現状では盾を重ねざるを得ない。それそれ違う色の盾だから、重ねれば別の色になる。そして光線は2本ほぼ同時にやってくる。双盾は、現在の防御手段にピッタリなわけだ。
しかし、こちらから攻めるとなると、どうすればいいだろうか? 普通に
……などと考えていると、少しずつだけど、ゴーレムがこちらに迫ってきているような気がした。脚は動いていない。大きく見えるようになったわけでもない。しかし、増してくる威圧感だけは確かにある。
俺は双盾を構え、回り込むように走り出した。そうして少し斜めから見ると、ゴーレムが戦闘開始時よりもこちらに寄ってきたのがわかった。位置関係が変わったところに、時間差をつけて光線が襲い掛かってくる。上から落ちるようにやってきた1本目、回り込んでから迫ってきた2本目をどうにか盾で防ぎ、観客が喚声を上げる。
『挑戦者、ゴーレムの接近を敏感に察知! 距離を詰められることを未然に防ぎました!』
『王者もかなり上手でしたね。脚を動かさずに前進させるだけでも相当な技術ですが、どうやら姿勢を微妙に変えつつ進ませることで、見かけの大きさが変わらないように細工していたようです』
『すさまじいですね! ゴリ押ししないあたり、ゴーレム使いとしての技巧と自負を感じさせます!』
確かにとんでもない相手だ。迫りくる光線に対処しながら、俺は考えた。この光線をどうにかしないと道はない。
問題なのは、撃たれてから着弾するまで、他ごとができないことだ。脚だけで避けきれるわけじゃないから、盾を使わざるを得ない。しかし、盾が2枚ないと、すぐに相手の点になってしまうだろう。つまり、相手の攻撃の結果を受けて、割られた盾を張りなおして、また攻撃が来る。そんな繰り返しになってるわけだ。
何か打開策はあるだろうか? 一番いいのは……目の前のゴーレムみたいな奴を使うことだ。俺の代わりに攻撃を受け持ってもらえれば、手数に余裕が出る。
そこで、俺は囮が効く相手かどうか、確かめてみることにした。足と盾で攻撃をさばいていって、どうにか余裕が出たタイミングで
すると、光線の1つがそちらに向かい、もう1つがこちらに来た。光線に射貫かれ、光球が飛散する。この距離で精確に射貫いてくるんだから、勝手にホーミングする攻撃なのかもしれないけど、いずれにせよ囮が効きそうではある。
しかし、光球は光盾より使うマナが少ないとはいえ、作り直すのに一手必要なのは変わらない。別の手を考えよう。
その時、視界にゴーレムが入った。
その埴輪に対し、容赦なく光線が飛んできて、砕かれた上半身が砂に戻った。しかし、魔法陣はまだ生きている。また砂が集まって埴輪の形をとるけど、追撃は来ない。その場から動かないこと、それと壊れた時のマナの動きで、見破られたのかもしれない。俺は泥衣人の魔法陣を解いた。
『さて、挑戦者は囮を用意しようと試みているところと思われますが、王者は淡々と処理していきます』
『こういったやりとりは、他の挑戦者でも見られましたね。ただ、ポイントに余裕のあるうちから試みています。そういう意味では、まだ考える余裕がありそうですね』
実際、追い詰められてにっちもさっちもいかなくなる前に、こうして考えながら動いているわけだ。
しかし、焦りが心の奥から少しずつ這い上がってきているのを感じる。防戦一方だ。焦りを意識してどこかに押し込み、攻撃をさばきつつ、俺は現状を再確認した。
囮を使うのは正解だと思う。相手はきちんと対処してくる。不確定要素を減らすためだろう。そのままにはしておかないプレイヤーだ。
問題は、囮が精確に破壊されるってことだ。囮を作る目的が、俺への注意をそらして防御に回す手数を節約するためなのに、すぐ壊されて作り直したんじゃ意味がない。つまり、きちんと狙ってもらえて、壊れない囮が必要だ。さすがに都合がよすぎる。
思い当たるものがないまま、俺は攻撃をさばき続ける。でも、焦りは確かにあるけど、諦めようって気はしない。緊張もいつの間にか消えてなくなった。戦いの熱が、思考を加速させる。
ただ、ゴーレムと自身の動きを統御できるあの王者を相手に、多少思考を速めたところでどうこうできる気はしない。とりあえず、異刻は自分の中に展開しておくけど、用ができるまでは等速だ。時間を遅らせるのは、何か他の手を打ってから。
今必要なのは、その何かだ。攻撃をかいくぐりながら、今できること1つ1つに考えを巡らせ……1つ閃いた。
思いついたのは、盾を張りなおす合間にかける魔法じゃない。バリアを1回犠牲にする覚悟を決め、俺は構えを取った。
そして……バリアが壊され、観客が沸き立つ中、俺はその魔法の記述を始めた。
『おおっと、ここで2点目! しかし、急に挑戦者の動きが悪くなったように見えますが、一体どうしたのでしょうか』
『さすがに、疲れたとか諦めたとかではないと思いますね。何かする気でしょう』
『その辺は、先輩冒険者である私も保証します』
急に落ち着いた口調で先輩が言った。ああまで言われてるんだ、少しぐらい、俺らしいところを見せてやらないと。
そうしてポイントを犠牲に作り上げた魔法は、Cランクの大きさの円に色々型をぶち込んだ、いわば集大成みたいなものになっていた。
そいつは持続性があって(継続型)、俺の動きに追随して(追随型:全身)、追随させる以外にも任意で動かせて(可動型)、周囲のマナを吸収して(収奪型)、吸ったマナを魔法陣の外殻に変えて(追記型:殻)、効果範囲を拡大していく(拡散型)、
書きあがったところに、さっそく光線が襲い掛かってきて、それはどうにか防御と回避が間に合った。これ以上のポイント献上は避けたい。
俺はゴーレムの動きに注視しつつ、光線を盾で防いでいった。ゴーレムは、動く様子がない。もうポイントで勝てるから、積極的に動かす局面じゃないと判断されたんだろう。
そうして、襲い掛かる光線を盾で防いでいくうちに、観客席からの声にざわめきが混じり始めた。俺の足元から上に立ち昇る青緑の霞が、次第にその範囲を広げているからだろう。それに、薄霧どころじゃないくらい、色も濃くなってきている。
これは、盾と光線が相殺されて散逸したマナを、魔法陣に吸わせていったからだ。実況する先輩の、妙に嬉しそうな声が響く。
『いやあ! 困りますね、これは!』
『そうですね。互いに、視界が効きにくい戦闘であるというのが前提ですから、選手にヒントを与えるような発言はできるだけ避けています』
『まあ、御覧のとおりの撹乱ってところですね』
『はい。後は、王者がどう応じるかですが』
濃くなっていっている青緑の霧の中からでも、外の様子は見ることができた。拡散型で散らさなければ、ちょっと危なかったところだ。そうして俺を包む霧は濃く、大きくなっていったけど、光線の狙いはまだまだ正確だった。
しかし……ついに1本の光線が霧を通過し、空に消えていく。初めて狙いを外したわけだ。すると、俺が避けたわけでもないのに攻撃が外れたことで、観客はヒートアップした。
『正確無比の狙いが、ここに来てそれました! これがまぐれでなければ、かなりの快挙です!』
『あえて自身を大きく見せることで、中心への狙いをつけにくくしたのでしょうね。もちろん、あの王者であれば順応するでしょうけど、挑戦者もそれは想定しているでしょう』
『いやあ、狙いを外させただけで、盛り上がってまいりましたね!』
解説中も、光線が何本もやってきた。大多数は正確に盾を破壊してくるけど、中にはハズレも混ざっている。
俺が狙っていたのは、視覚の代わりにマナを視ているであろう相手に対し、大きなマナで周囲を包んで”見た目”を大きくすることだ。そうすれば、見せかけの当たり判定を大きくし、中央にいる俺への狙いを甘くできるんじゃないかと考えた。そうやって相手の狙いを阻害することで、確率の防御を得るわけだ。
そして、外れる攻撃が増えれば、盾を作り直す手間も省ける。攻撃が外れだしたことを見る限り、作戦はうまくいっているようだ。
相手に対するこうした妨害のおかげで、攻撃の脅威は少し軽減できたけど、この霧だけで完全に避けきれるわけじゃない。それと、光線と盾の攻防で相殺されたマナを食わせ、霧を大きくしているのだけど、直接自分のマナを注ぐより回収効率は悪い。そういうことを承知の上で、相手は攻撃を継続しているんだろう。
実際、現状ではまだ反撃に転じられない。しかし、徐々に霧が大きくなるにつれ、それる攻撃が増えてきた。少しずつだけど、俺の防御策の力が増していっている。
そして、光線が3割ほど外れるようになってから――ゴーレムが動き出した。
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