第19話 「闇の中の優勢」

 森の中へ駆けながら、作戦のおさらいをする。透圏トランスフェアで状況確認できる遊撃・指揮の俺達7班が、1~6班に指示を出しつつ、各班が囲まれないよう先手を打って犬を退治していく。

 1~6各班の配置は、魔人がいると思われる中心部を避け、ドーナツを6等分する形だ。形としてはバームクーヘンになる。

 8班は森の外で色々やるそうだ。疲弊した戦闘要員と交代したり、森から犬が出ないように囲ったり、森の外の連絡係になったりと。8班が本部隊で、その下に全体のサポートのために細分化した班があるという方が近い。


 お嬢様の透圏は、今日は流石にいつもどおりとはいかないようだ。普段よりは赤紫の敵影が若干滲んで見える。それでも、十分個体識別できる解像度だ。

 各班の疲弊度をなるべく均質化するのが、7班の最大の役目とのことだった。どこかに負荷が集中すれば、簡単に総崩れになる。これまでの戦いで幸いにも大きく崩れたことはない。でも、お嬢様にしてみれば常にギリギリにしか感じられなかったと、後日語ってくれた。


 放っておくと他班をはさみかねない敵集団を発見、急行して距離に入った。緊張で息を呑むと同時に、マリーさんが放つ矢の風切り音と、お嬢様の放つ稲妻の音が響く。

 今回は3匹の群れだった。巻き添えを狙える位置の敵にお嬢様が仕掛け、外れた敵をマリーさんが撃つ。散開していれば、早めに2人で仕掛け、マリーさんが2匹倒す。なるべくマナの消耗を抑えるということで、こういう割り当てになっている。


 稲妻に撃たれた方の敵は、罠で2匹同時に捕縛できそうだ。とはいえ、あまり欲張らず1匹に意識を集中し、もう1匹は運が良ければ……ぐらいの気持ちで複製術を使う。そもそも、この罠自体がうまくいく保証はない。

 最初に意識した1匹の方には、罠をしっかり仕掛けられた。これぐらいはできて当然だ。もう1匹に意識を移すと、こちらもしっかりと空の器に乗っている。思わずガッツポーズしそうになるのをこらえた。

 罠はマナを奪っているはずだったけど、連中は微動しているように見える。空中にも展開してサンドイッチしようか、そう思って構えると、お嬢様に手で制された。彼女は真剣な目で罠の方を見ている。別の方からは、風切り音と悲鳴に似た吠え声が聞こえた。そちらは大丈夫だろう。

 犬の痙攣が、少しずつ弱くなる。そして、ばったりと止まった。「やりましたね!」お嬢様が、凛々しい顔つきで俺を称賛した。うまくいってよかった、ホッとして胸をなでおろす。すると、「こちらもお願いします」とマリーさんに呼ばれた。


 マリーさんと戦っていた犬は、一方的にやられていたようだ。後頭部から股に抜ける最初の一矢でひるまされ、横に倒れたところを地に縫い付けるように、3発射たれている。それでもなお、四肢を激しく動かし、口から泡を飛ばして唸り声を上げている。


「こういう戦い方では、矢がいくらあっても足りませんので、後で回収いたします」


 そう言って、マリーさんはお嬢様の方へ向かった。

 目の前の3匹目に罠をかける。動けなくなるのを待つ間、後ろで手と手を叩く乾いた音が聞こえた。

 そして犬の動きが完全に収まってから、マリーさんの方へ向かった。先の2匹は、彼女に完全に紐で縛り上げられている。脚四本を繋がれた上に、口も縛られて身動きができない感じだ。


「初戦は上々ですね」とマリーさんはすれ違いざまに言って、俺が無力化した犬の方へ駆けた。念のため、お嬢様に目配せしてから、次の構えをしつつ仕掛けた罠を解く。

 時間とともに、犬どもが身じろぎする動きは大きくなる。しかし、束縛を抜けるほどではない。大丈夫だと考えて良さそうだ。

 マリーさんが行った方からは、矢を引き抜く音と、どこか悲痛な呻き声が聞こえた。まぁ、あっちも大丈夫だろう。


 後で呼ぶ回収班のための目印ということで、犬3体を集めた上に、お嬢様は白い光球ライトボールを配した。滑り出しは最高だったけど、気を引き締めて透圏を確認する。


「包囲の気配はありません。まだ序盤だからということもありますが……なるべく、孤立した群れから狙っていきましょう」


 そう言うお嬢様の導きで、次の標的へ向かう。


 あまりというか、ほとんどいい印象のない森の中だけど、やはりこんな赤紫の霞が漂う中では、いつにも増して不気味だった。赤紫の空気をバックに、暗い幹と青々とした葉が奇妙に映える。ただ、そばにいるお二人のことを考えると、怖気づいてもいられないという気持ちになる。


 狙い定めて近づいた次の敵集団は、散開していた。手はずとしては、マリーさんが2匹やる予定だった。俺の右手は、それでも今なら魔力の矢マナボルトで確実に1匹は倒せる、そう主張している。

 頭の中で、あまり2人に負担をかけたくないという思いが湧き上がった。それと、自分がなんか楽してるんじゃないか、みたいな後ろめたさが。それも、女の子に任せて、後ろで待って……そんな考えを必死で飲み込んで、作戦に集中することにした。

 脇で彼女たちの攻撃音がした。お嬢様が攻撃を仕掛けた方に意識を集中させ、罠をかける。位置が正しいことを確認すると、残る犬にも同様に仕掛けていった。

 ここまで、流れは完璧だった――脳裏に一瞬だけ生じた、迷いのようなものを除いては。

 犬を先程みたいにまとめ終わると、一瞬心に生じた考えを、お二人に話した。


「罠をかけるのが第一ですが、それさえ確実であれば、先んじての一射は有用かと思います」


 そう言ってマリーさんは肯定した。


「リッツさんの消耗が心配ですので、罠以外では群れ一つに付き一射に留めてください。ですが、体の感覚として必殺を確信できるまでに至ったことは、とてもうれしく思います」


 お嬢様は無理をいましめつつ、上達を喜んでくれた。

 そんなやり取りの後、また森の中の状況確認に入る。


「まだ、あまり状況に動きはありません。4班が交戦に入るかというぐらいですね」

「今のうちに回収を依頼しては?」

「そうですね」


 マリーさんの提案に応じると、お嬢様は左腕を胸元に上げた。腕につけたブレスレットは、8色の棒人間が手をつないでいるように見える。彼女がそのうちの一人、黄色い棒人間に触れると、プラチナブロンドっぽい色だったブレスレットが白くなり、黄色い人がより濃く見えた。


「8班です、どうぞ」

「7班です。回収願います。第4ポイントで待機中です」

「了解、直ちに向かわせます」



「すっげー……どーやったんす、コレ」


 リヤカーを引いてきた冒険者の二人組が、テキパキ犬を乗せつつ聞いてきた。


「ごめんなさい、まだ教えられません。それと、このことは他言無用で……8班の中でも、森の囲みに入っている方々には、なるべく知らせないように」

「りょーかいっす」


 ちょっと砕けた感じで話す方だ。しかし、縛られてもなお暴れる犬の動きを、上手く制してリヤカーに突っ込んでいるあたり腕は確かだ。今日のそのための人選なのかも知れない。腕利きの牧童というか。


「道具を集めたあたりに、薄茶色の布で包んだスコップが4つほどございます。埋めずに、ただ穴を掘ってそちらへ」

「うっす。じゃあ次のポイント行きます」


 そう言って二人組は、最初に捕縛した犬の方へ軽快に走り去った。


「まだ、本格的に動き出した感じはありませんが、なるべく先手を打っていきましょう。疲れを感じ始めたら、一度外に出て休憩しますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「では、近くの群れへ」



 かれこれ、5つ目の群れも制圧したころには、状況は大きく動き始めていた。


「1班、その場で待機。2班、進行方向に群れがいます、そのまま前進を。6班、そのままですと5班と鉢合わせます、後方に敵がいますのでそちらへ」


 お嬢様は、いつも手のひら大だった透圏を、今度は直径1メートル程度にまで広げて、ブレスレットの通話先をひっきりなしに切り替えながら指示を飛ばしている。今の透圏の大きさが、本来の大きさなんだろうか。器も文も、いつもよりはっきり見える――格の違いも。

 お嬢様も“罠”をかけること自体はできる。それでも俺に罠作りを任せるのは、司令塔としての役目があるからだ。場合によっては魔人との交戦の可能性もある現状で、罠の方にまで気を配ったり、余分にマナを使ったりはできない。


「他にも理由があります」


 敵へ向かう道すがら、7班内での役割分担に話が及んだとき、お嬢様が罠をかけない理由を教えてくれた。


「一応、使えないわけではないのですが……どうしても、最初の複製元で当てに行くように書いてしまって」

「あー、そういうことですか」


 コピーで発生した、外周部分の空の器で罠に掛ける必要があるため、最初に書く複製元は、標的からは外す必要がある。その、わざと外す準備運動で、どうしても狙ってしまうのだろう。


「私は、これまでの訓練で確実に当てることが身に染み付いていますから、よほど意識的にしないと、あえて外すようには魔法を使えません。リッツさんは、当てる方も狙い通りに外す方も、ほぼ変わらないスピードでこなせます。これは、修練の結果というよりは、一種の才能かもしれません」


 罠自体はオリジナルの魔法のつもりだったけど、実際には罠をかけに行くときの意識の持ちようこそが、オリジナルというかユニークだったらしい。調子に乗るつもりはないものの、お嬢様に魔法でほんの少し勝るポイントができたのは嬉しかった。



 遊撃班の仕事は、他の班への負担を減らすことだ。他班には”いつもどおりの戦い”と感じさせて、負担や動揺を与えないようにする。

 そのため、他の班の配置を変更するのは、できる限り控えなければならない。その上で、各班の負担を均質に軽減する必要がある。そうなると、”遊撃”班である7班が森の中を駆けずり回るのは、自明の理だった。


「なるべく、最短ルートを選んでいるつもりですが、大丈夫でしょうか」

「まぁ、なんとか……」


 縛ってまとめた犬を見ながら、地面に座る。

 中高と陸上で長距離やっていたのが、こうして活きてくるとは思わなかった。スタミナは本当に資本だ。

 それでも、森の中を走り回るのはかなりキツい。それに、少しずつだけど自分の指から生じるマナが、なんとなく不安定になってきた感覚もある。普段とは違う環境の中、罠をかけまくっているのが確実に負荷になっているようだ。

 マナと体力、どっちが先に悲鳴を上げるか、そんな状況だ。

「お嬢様はいかがでしょうか」と、若干息が上がりつつあるマリーさんが聞いた。


「走った疲れは多少ありますが……マナや精神的な疲労は、以前よりだいぶ少なく感じます」


 前はもっと大変だったのかと愕然とした。透圏をいつもの考え事の顔で見つめながら、お嬢様は話を続けた。


「森の中の実質的な敵数が減っている実感があります……そのおかげで各班の交戦回数と、こうしてチェックする頻度、連絡の回数も抑えられていますから。油断は禁物ですが、見たところ例年よりもかなり望ましい状況で推移していると思います」

「……頑張ってますね、俺達。どれだけ捕縛しましたっけ?」

「42匹ですね」


 必ずしも3匹で群れを組むわけじゃないけど、15程度の群れを捕縛して、今頃仲良く穴の中にいるわけだ。

 リヤカー部隊は、出会う度に興奮と喜びと、若干キレてる感じが混ざるようになっていた。犬の扱いが上手い方の彼は、走るのに疲れてリヤカーに乗ってくるようになっていた。相方の運び屋は全然疲れてない。天の配剤だと思った。



 捕縛数が50を超えるころには、さすがに疲労を少しは解消しないと続けられなくなったため、一度森の外の本陣に帰還した。


 秘密の作戦という触れ込みで進めてきた今回の試みも、ここまで来ると隠し立て不可能だろう。掘った土を万一に備えて堤にした、深くすぼめたクレーターのような穴に、犬が重なるように突っ込まれている。

 それだけ聞くと愛犬家が激昂するだろうけど、その光景を見れば卒倒するだろう。互いに重なっては、紐に抗しようと各々うごめく犬は、それぞれ赤紫に光る目と、地の底から響くような唸り声で人を威嚇し続けている。

 その犬の声に、冒険者の方が「何事か」と興味を持って穴に近づき、「すげぇ」と一言漏らしてすぐ立ち去る、そんな光景を何回か目撃した。体力もマナもかなり消耗していた一方で、達成感がかなりある。

 しかし、まだ夜は続く。黒い月は天頂にある。夜明けはまだ遠い。


 お嬢様は本陣の補給担当者と会話している。右手に持っている小瓶は、タウリンだかビタミンCだかが1000mg位入っていそうな、飲みきりサイズのものだ。


「では、やはり」

「はい。例年よりも消費スピードは、かなり遅いです。払い出すたびに、消費予測を修正していきましたが、時間経過とともに事前の予測と離れていきます」


 各班がどれだけ消耗しているか、その度合いの可視化ということで、毎年補給物資を指標に用いているということのようだ。なんとなくの印象ではなく、実際の動きとしても、今回はかなり好調らしい。

 犬の様子を見て、歓喜と興奮を抑えられない8班の待機人員とは対象的に、補給担当の方は落ち着いている。むしろ、少し困惑しているようにも見えた。

 その一方、彼と話すお嬢様は、この場の誰よりも冷静に見える。「7班より全体連絡。各班の疲弊度は?」と、お嬢様がブレスレットで問いかけると、各班一様に例年よりもかなり温存できていると返してきた。7班がその分疲れているわけだけど、それでも全体としてはいい取引だろう。今のところ大きな負傷者もいない。


「各班へ。現状こちらに有利に流れていますが、緩急をつけて仕掛けてくる可能性もあります。警戒を怠らないように。1班は今のうちに協議したい事項があるため、一度本陣へお願いします」

「1班了解、入れ替わりは?」

「現状の密度であれば、2・6班への負担は変わりません。そのままの配置で」


 気になって透圏を見てみる。1班はラナレナさんが率いる班だけど、こちらの方面を若干優先的に、7班で掃除した感じがある。こうやって一度抜く状況を最初から想定していたのだろう。


 積み上がった資材にもたれかかりながら、少し休憩していたところへ、ラナレナさんを先頭に1班が帰還してきた。体格のいい男性2人を従えているけど、きっと全力疾走したのだろう、彼らは息が上がっていた。

 ラナレナさんはお嬢様に駆け寄っていった。お嬢様が補給用の瓶ドリンクを手渡し、ラナレナさんが一息で飲み干す。その間、周囲の誰も、一言も発しなかった。お二人が何を話すのか、一言も逃すまいと様子をうかがっているようだ。


「どうする、指揮官」

「1班と7班を解体、私とラナレナさんで新しく7班に。他の方は8班の救援班に組み込みます」

「2~6班で、犬を抑え込むのね。今の調子だと、それでも例年よりは楽そうだけど」


 そう言うラナレナさんの口調に、良い状況に対する浮かれた感じはない。聞いているお嬢様も同様だ。


「連絡係が7班に2人っていうのは……いえ、いいわ。必要な備えね」

「はい」

「一応聞くけど……7班の動きは?」

「中央へ」


 周囲から大きなどよめきが上がる。「静かに」とラナレナさんが、さほど大きくはないものの、ピシッとした口調で場を抑える。


「念のため、皆にも考えの共有を」

「魔人が魔獣の現在地を把握している様子は、過去にもありませんでした。操っているという明確な証拠も。それでもブラフの疑いは捨てきれませんが……少しずつ有利に傾けているこの状況を、まだ相手側に認識されていないように感じます。あるいは、認識できていても打つ手が無いのかもしれません」


 ラナレナさんがうなずきながら聞いている。周囲の冒険者の方々も同様だ。そして、ここから新たに1手打つんだ、そんな期待感が場に満ちていく。


「状況の傾きが決定的になって退却される前に、敵将に迫ります。取り逃がす可能性は高いですが、この機に相手の力の一端でも把握できればと」

「なるほど。森の中の連中は、いつもどおり戦わせ続けるのね」

「はい。戦況確認はマリーに任せます。彼女を置く8班から、各班に指示を飛ばす形で。班の役割分担は、2~6が現状維持、7が敵本体へ打撃、8が後方で指揮という形を考えています」

「ふーむ。みんな、何か考えは?」


 ラナレナさんが周りを見回し、発言を促す。


「回収班はどーしましょ」

「私達が森から戻ってきたら、また何かしら任務が発生すると思います。とりあえずは休んでいてください。今のこの状況を作り出せているのは、あなた方のご協力あってのことです。本当にありがとうございます」


 犬の回収班の方々は、柔らかな微笑みをたたえつつ深く礼をするお嬢様に、照れくさそうに後ろ首を掻きながら、返すように頭を下げた。

 別の方からは、集めた犬に関する質問が飛んだ。


「こちらで捕えた犬はいかがいたしましょうか?」

「様子を確認するために、埋めずに置いていますが……異常がなければ生かしたまま捕え続け、束縛を解いて動くようなものがあれば、飛び道具で仕留めてください。状況によっては、埋める必要が発生するかもしれません。犬全体に何かしら一斉に変化が見られるようであれば、私達への連絡と応答を待たず、即座に坑殺してください」

「かしこまりました」

「集めた箇所には、交代で必ず誰か一人は見張りにつけてください。また、見張りの方に対する見張りもお願いします。犬の見張りの方に違和感を覚えるようであれば、即座に穴から引き離してください」

「了解いたしました」


「8班から指揮するとのことですが、各班の命令系統の序列はどうしましょうか?」

「7班が魔人と接敵するまでは、7班を最上位に。接敵直前に私達から連絡した後は、8班を最上位に。以降、再度連絡があるまで7班は、存在しないものと考えてください」

「……了解です」


 他にもポツポツ湧いてくる質問に、テキパキと答える彼女を見て、特別な日の装いのせいもあるだろうけど、周りのみなさんがものすごく畏まりたくなるのもわかる気がした……それと、妙な距離感も。

 質問がなくなると、あたりが静まり返った。周りの方から唾を呑みこむ音すら聞こえるようだ。犬の唸り声だけが恨めしそうに響く。


「7班はこれより魔人のもとへ向かいます」


 落ち着いた口調でお嬢様が宣言すると、大きな声が湧いた。それから、新7班のお二人は一礼し、雄叫びのような激励に送られるようにして森の中へ駆けていく。

 姿が見えなくなるまで声援はやまなかった。そんな熱狂の渦の中、俺は逆に冷静になっていった。


 こんなに色々とうまくいっている状況に、いまいち実感がわかない。

 俺が発端になって始まった作戦が、こんなにうまくいっているということに、信じられないという思いが少なからずあった。それを口にすれば、もしかしたら本当に色々なものが崩れるんじゃないかという恐怖も。

 今もなお、何かに向かって吠え続ける犬達が、本当に不気味だった。奴らを手玉に取ったこの状況も、たちの悪い夢なのかも知れない。


 俺は空を見上げた。黒い月からとめどなく、赤紫色の血が流れて空を染めている。

 夜はまだ終わらない。

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