第2795話 結び:引っ越し実行

 案の定、何の連絡も来ることなく引っ越しの日が来た。次々と家具が運び出され、生き物が誘導され、船に乗せられていく。これは「第五候補」のとこの元海賊の人達が渡鯨族の港町まで運んでくれる。

 運び出すものを運び出してから、残っている施設を【ミニチュア化】で小さくして回収したり、普通に解体したりして撤去。その最後にクランリーダーである「第一候補」が見て回り、クランハウスとしての機能を回収していく。内部空間が超巨大になっていた冷凍室、冷蔵室とかな。

 雪像達や一部精霊獣達みたいな、特定環境が必要だったり、環境が変わる時に特に注意しないといけない子達を専用の移動車両に乗せて、こちらは竜族部隊の人達に空輸してもらう。目的地は同じく渡鯨族の港町だ。時間はかかるが安全で確実だからな。


「さて、撤収作業に抜けはありませんか? ……ありませんね?」

「まぁここを巡礼用にどうこうするのはもうちょい後の筈だしな。忘れ物しても何日かなら大丈夫だぞ!」

「もちろん~、忘れ物が無いに越した事は無いのだけどね~」


 念の為お互いの島を確認し合い、大丈夫である事を確認。しかしこうやってみると、色々増えてたんだなぁ。

 何だかんだやっていると、事前に出来る範囲の準備をしていたとはいえそれなりに時間が経過する。流石に今からホテルを取るって訳にはいかないからな。……私と「第一候補」はそれぞれ、竜都と聖地に自分の部屋があるが、まぁそれはともかく。

 なので急いで現地に移動して、「異空の箱庭」をお互いに確認し合い、連結してから権利書にあった土地の真ん中に設置だ。


「はっはっはー! 分かってたけどすごい事になるな!」

「まあ~、「異空の箱庭」の数だけ見てもね~」


 反応省略。いやぁ、流石にこの規模の地形変化とそれに伴う白い箱の巨大化は見応えがありましたね。その後の開封演出もすごい事になっていた。

 ただその時点でだいぶ残りログイン時間が少なくなっていたので、私が事前に聞いていた場所をルイシャンに乗って巡って「築城の小槌」で解体しやすい城を出し、そこでログアウトである。

 で、翌日は日曜日なので、午前中からログイン。イベントが無いから司令部も結成されていない。だから確認するのはクランメンバー専用掲示板だけだ。


「……なるほど。確かに最後の大陸は実質更地になってましたからね。各地に教会は建てたものの、どこの国の所属とかいうのが決まっているのは、聖地及び竜都ぐらいですか」


 で。このリアル2週間、内部時間2ヵ月で、水面下でどの国がどれくらいの面積をとるかで静かに牽制しあっているから、もう召喚者プレイヤーのクラン単位で占有権を主張してうやむやにしてしまおう、という運動が起こっている、という事が書き込んであった。

 まぁ実際うやむやに出来るかどうかは別として、それで「第一候補」も大々的に動いたのだろう。ま、住民的に見れば、『アウセラー・クローネ』というクランは、御使族、不死族、竜族の皇女が所属している、下手に干渉できない組織筆頭だからな。

 そこが先陣を切って「ここうちの土地な!」をしてしまえば、他の召喚者プレイヤーは続きやすいし国は足踏みをせざるを得なくなる。前例がある、っていうのは強いからな。それが、色々な意味で手を出しにくい相手ならなおさら。


「ま、この土地の権利書があったから出来た事、というのは、第二陣以前の召喚者プレイヤーでも何人分かる事かって感じですし」


 リアル何年前だ……? になってるからなぁ。今大学4年生の私が、高校2年生に上がったばかりの5月だろ、あれ。「第四候補」の杖の超強化の時に出てきたものの、その時の報酬を調べるか覚えている人がどれだけいる? って話だし。

 ……ただ、エルルとサーニャについての話も出てないんだよな。つまり相変わらず何の情報もないし連絡もつかないって事なんだが。


「……うちの子なんですから、進捗ぐらい知らせてくれてもいいんじゃないですかね」


 まぁそれが知らせられないからこの情報封鎖っぷりなんだろうが。

 ほんとに、特殊な形の試練だとして、どういう内容になってるんだ? エルルに魔法式銃を渡した時みたいな、それぞれの弱点を徹底的に突く感じの試練か?

 でもそれなら、それこそ魔法式銃で対策出来てる筈だしな。やっぱ耐久型か、それともひたすら時間がかかる系か?


「だとしても、それならサーニャのクリアが無理筋になりかねませんし。そんな理不尽な試練をティフォン様やエキドナ様が課すかというと、疑問というかたぶん無いんですよねぇ」


 うーん、分からん。一応元の島には引っ越しをした事と、引っ越し先の座標を書いた看板を立ててきたし、島の様子もクランメンバーが見てくれてるみたいだけど、そっちにも戻ってきてる感じじゃないっぽいし。

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