第2759話 73枚目:姿確認

 数がたくさん出てくるとはいえ、一応は種別がレイドボスとなるだけあって、1体1体が結構大きい。そのサイズのモンスターがたくさんいるんだから、ラスボスの姿は見えなくなっていた。

 だが、口と腕が追加されたと言っても、元は既に何度も倒した事のあるモンスターだ。倒し方は分かり切っている。しっかり防御していたお陰か、領域スキルとその保持者以外にスキルが「喰奪」状態になった人はいなかったし。

 それに、スキルを奪ってもそれを消化したり吸収したり出来る訳では無いか、それが出来るまでには時間がかかるっていうのは、追加された口と腕に捕まえられた魔法が暴発した事から分かる。


『本体確認! 【鑑定】スキル通りました! 名称、「呑み餓える異界の禍王」!』


 だからステージボスの群れと召喚者プレイヤー側の集団が正面からぶつかって、勝つのは当然ながら召喚者プレイヤー側だ。先程の爆発は、威力はあっても押す力は無かったのか、拠点の位置はほぼ動いていなかった。ラスボスとの距離そのものは変わっていない。

 片っ端から撃破して、【解体】なんかで残る素材は再利用されないように後方に吹き飛ばして。戦いながら文字通りに道を切り開いて進んだ先に、こちらも位置は変わらずラスボスは存在していたらしい。

 今度こそ【鑑定】スキルが通り、映像越しにその名称が共有されて、体力バーが表示される。黒地に青色のそれは、既に3本ある内の3段目が削れ始めていた。ここまでの戦いの分も、ちゃんとカウントされていたようだ。


「……、あれ?」

「なんかちがくね……?」

「誰か立体パズルか胞子のボスのスクショ持ってね?」


 ただその姿が、「凍て食らう無尽の禍像」や立体パズル(罠)で模られていたものとは、ちょっと違っていた。顔から胸にかけてが縦に裂けて大きな口になっているのは一緒だし、両手を伸ばしているのも変わらない。

 だが……まず、その姿勢が、へたりこむように座ったものではなく、しっかりと両足を広げて立っているのが違う。髪は分霊と一緒でストレートだった筈だが、ウェーブがかかってうねるような癖になっている。

 それに、服も着ていたか怪しい、もしくは、最初に出会った時の布切れを引っかけているようなものだったのが、破れて穴が開き袖が無くなっているとはいえ、マントのように何か服だったものを羽織っている。


「司令部、どこが違うん?」

「座り姿勢が立ち姿勢になり、髪の癖が変化、衣装がしっかりしたものになり、頭に冠のようなものの残骸が増えています」

「なるほど」

「……つまり、こう、寄った?」

「たぶん寄ったんだろうなぁ……」


 何にかと言えば、まぁ、魔族の王に、だな。ここまで出来る限り頑張って来た分だけ、異界の大神の分霊は引き剥がせている筈だ。そして引き剥がせた分だけ、異界の大神の要素が減っているのだとしたら、まぁ当然もう1つの要素である魔族の王に寄るだろう。

 ……という事は、ここまで模られ目にしてきた“呑”むこと「呑み餓える異界の禍王」は、異界の大神要素が最大の状態だったんだろうか。魔族の王と異界の大神、どっちが厄介かって言ったら、それは当然異界の大神だろうし。

 なら、少なくとも最大難易度状態、ではない、筈だな? たぶん。恐らく。ダメージを与えたら魔族の王部分から先に剥がれ落ちて、異界の大神の方に寄っていく、とかでない限り。


「ただ、スキルを「喰奪」によって保存していると思われている瘤はまだ発見されていません。最悪、あの口の内側に存在している可能性があります」

「それワンミスでロストまであり得るやつでは?」

「いや、まぁ、たぶん大丈夫やろ……スキルだって魔法だって、捕まえられてもその後取り返せる目があるし……」

「……まさかと思うけど、「呑み餓える異界の禍王」の内部探索の為の、【界外環境耐性】……?」


 …………。

 筋が通っちゃったなぁ。

 いやまぁ、今のこの、夜空みたいな何かの中に放り出された状態も多分、【界外環境耐性】無しだとスリップダメージぐらいは受けててもおかしくないんだろうけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る