第2707話 73枚目:猶予と空白

 城風ダンジョン(?)に突入してから、8時間が経過した。

 どうやら司令部によれば、突入時点での正確な残り時間は加速状態で3日と17時間ほどだったらしく、ここで一度しっかりとした休憩を挟むとの事だった。まぁ長期戦のつもりならそうなる。

 もちろん全員が一度に休むって訳にはいかないから、交代で休めるようにある程度グループ分けをする必要がある。その流れでざっくりクラン単位で戦力が均等になるようにしたグループ分けを発表する司令部は相変わらず有能だ。


「私達は順番こそ後ですけど、ちゃんと休憩時間は割り振られてますからねー。ちゃんと休むんですよー」

「そりゃ休めるんなら休むよ。それも仕事の内だし」

「ところで誰かエルル見ませんでした?」

「え? ……あっ!? 襲撃と一緒に警戒してたのに!」


 エルルの休憩からの脱走は襲撃と同じなのか。まぁでもサーニャなら少々疲れててもエルルを見つけられるだろう。最近はニーアさんも、空間内の呼吸の数を数えて見つけられるようになってきたらしい。なお、私が魔視で種族特性発動中のエルルを見つけられるのはもうちょっと秘密だ。切り札だからな。

 さてそんな訳でエルルも無事休ませる事、おおよそ3時間。もうちょっと休んでいいって言ったんだが、どうやら生産スキルに重きを置いている召喚者プレイヤーが、かなり良質な毛布を配ってくれたらしい。ほう?

 ちなみに同じぐらい質が良くて、なおかつ組み合わせで相乗効果のあるベッドもあるという話を聞いたのだそうで……なるほど試供品戦略。この最前線で商魂たくましいな。


「まぁ個人の部屋の模様替えは自由にしていいですからね。お給料の範囲で」

「そーれがなかなかいい値段してんだよなぁ」


 安月給とは口が裂けても言えない筈なので、その辺のやりくりは自分でしてほしい。ちゃんと正式な番隊所属と同じだけの基本給は出してる。むしろ何だかんだと手当てがついた結果、総合すると平均より上の筈だぞ。特にこういう非常時手当は大きい筈だ。現金資産を消費するチャンスだからな。

 さてまぁそんな感じで休んだら、探索再開だ。とはいえやはり広さが広さだし、ステージの端に「大神の小さな像」に変わるギミックがあったという事で、しっかり地図を埋めつつ進んでいるから、そんなに進みがいい訳では無いが。

 それでも、私が制御訓練のノリで生物の立体パズル(罠)シリーズを解除できるようになったからか、竜族部隊の人達も解除に回るようになったらしい。ベテラン勢もこれは制御訓練に良いって事で積極的に解除しているみたいだし、ペースとしては悪くない筈だ。たぶん。


「で、そろそろ半分ぐらいは見えました?」

「一応端から計算した場合は6割を超えている筈ですが、中央に近づくほど空間が歪んでいるらしく、全体面積は不明なままですね」


 うーんこの。本当に空間に干渉できる相手は厄介だな。

 ただまぁどうやら司令部の空気的に、「第一候補」が中心になって作っている祭壇とそこで行われている神の力を回復させるあれこれは、それなりに効果が出ているようだ。

 そしてその効果を更に上げる為には、生物の立体パズル(罠)シリーズを解除して、異界の大神の神殿で使われていたらしい飾りを回収するのが一番手っ取り早い。

 まぁ飾りと言っても恐らくは大神の力の欠片なんだろうしな。でなきゃ、わざわざそんな形にする必要はないし、罠を解除したらそうなる理由が分からない。


「まぁだから、探索を急いだ方がいい訳ですよね。罠が勝手に周囲へ追加されるという事は、その分のリソースがどこから出てるんだって話ですし」

「そうですね」


 そういう事なんだよな。

 ……本来の歴史の流れを考えると、とっくに異界の大神の分霊は魔族の王と融合または同化している筈だ。過去のIFという形でその一部を救出出来たとはいえ、そこまで大きな変化を与えられたとは思えない。

 と言う事は……まさか、本来の歴史の先である現在に至ってすら、まだ大神の分霊は抵抗を続けている、って事、か……?

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