第1338話 42枚目:内部の経緯

 私が文字通り旗印となりながら、次から次へと現れるモンスターを片っ端から倒しつつ、恐らくたぶん螺旋を描いて中央に近づけているんじゃないかな、という移動をしていると、ふとウィスパーの着信があった。


『はい、こちら「第三候補」です』

『やはりか、急激に外に満ちていた力場が乱され始めたからもしやとは思ったが。ともあれまずは、救援感謝するである』


 その声は「第一候補」だ。……現状で一切のノイズ無し、という事は、これは本物で合っているようだ。


『まだそちらには辿り着ける感じがしませんけどね。いやぁ驚きました、あなたに最終確認を取ってゴーサインが出たから踏み込んだら、いきなり空間が軋むものですから』

『分かっているとは思うが、それは我ではない。こちらの細かい経緯はパストダウンが伝えている筈であるから、後ほど確認してもらいたい』


 ここでちらっとカバーさんを振り返ると、走りながら頷きが返ってきた。どうやら情報交換は出来ているらしい。


『分かってますよ。カバーさんに聞いて確認はしますが、大方中央の本神殿で籠城しているんでしょう? 戦力的にも力場的にも』

『正解である。ここだけは抜かれる訳にいかぬであるからな。住民もほぼ全員収容できた筈であるが』

『同じく籠城している召喚者プレイヤーは大丈夫ですか?』

『我とて領域スキルは保持しているであるからな。最初にこの内部へ入った時点で真っ直ぐ本神殿へ向かい、そのまま力場を展開して弾き出しているである』


 なるほど。「第一候補」がそのままログインしっぱなしって訳にもいかないし、ログアウト中の力場あるいは儀式場の維持に『巡礼者の集い』の人達が動いてるんだな。

 そしておそらく、「第一候補」が初手で本神殿を確保してがっつり守りを固めたから、こうやって外から囲んで潰すような戦略を取ったんだろう。まぁそれしか方法はないもんな。


『ならひとまず、前回のように一番大事な物をこっそり掠め取られている、という状況の目は潰せたわけですね』

『うむ。それに禁書庫はここ、本神殿からしか入れぬようになっているであるからな。まぁ、だから今回はここまで事を大きくしたのであろうが』

『でしょうね。それでいくと、このまま外を回り続けているのも手の1つでしょうか。妨害されているという事は、私がそちらに合流するのはやってほしくないんでしょうけど』

『合流は目指してもらいたいであるな。やはり肝心要となるのは本神殿である。もちろん外で力場をかき乱す事で、あちらの準備が遅れて手間が増えるのも確かであるが』


 まぁ妨害するって事は、そうして欲しくないって事だもんな。つまり相手のマイナスないしこちらのプラスになる事だ。それに一度合流してしまえば、そこで物資をやり取りしてから再度外に打って出る事も出来るんだし。


『分かりました。引き続き合流を目指します。……本音としてはさっさと合流して、入り口と本神殿を往復してスムーズに真っ当な召喚者プレイヤーを引き入れたいんですが』

『くはは、それが最も相手の嫌がる事であろうからな。手勢を紛れ込まそうにも、それほど強力な力場を展開していれば不可能である。徹底的に邪魔されるであろう』

『知ってます。だからやるんじゃないですか』

『で、あるな。こちらはまだ防戦一方であるが、もうしばらくすれば少なくとも儀式的には付け入る隙が出来るかも知れぬ。引き続き頼むである』

『えぇ。邪神の信徒に次など与えません。――これ以上被害を広げてたまるものですか』

『――は、全くであるな』


 それに、ここで完封すれば、前回「第一候補」がこの空間異常の結末を「痛み分け」に持って行ったって事の価値も上がるしな。最初で最後のチャンスを見事に潰して見せた、って事になるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る