第1336話 42枚目:突入開始

 で。「響鳴する皇竜の旗槍」を両手で持って「祝護のヴェールカチューシャ」を頭につけ、まだ鎧部分が僅かにしかないものの、形としてはドレス鎧を着こんで空間異常へ突入だ。

 【響鳴】で私の種族特性が強化されているのは「第一候補」と司令部に伝えているので、問題は無い筈だ。他の儀式や力場との折り合いが悪いとかの問題があったらストップがかかる筈だし。

 だからある意味安心して空間異常に突入した訳だ。皆でわいわいしながら、どこかしらで情報を手に入れてきたらしい推定可愛い好き召喚者プレイヤーの人達と一緒に。ほんとどこからともなく集まってくるんだよなぁ。


『「第一候補」。今から突入しますが、大丈夫ですね?』

『うむ、問題ないである』


 そういう風に確認も取って突入した。

 ら。



 メギリ、と、いきなり何か軋む音がしたんだよね。



『あの、「第一候補」? いきなり全く大丈夫ではないのですが?』


 私は現在【王権領域】も【調律領域】も展開していない。【響鳴】と【領域効果】及び装備性能の「一部スキル効果+」で強化・増幅されているのは、種族特性だけだ。

 もちろん種族特性にも善及び中庸属性の存在を強化して悪属性の存在を弱体化する効果はある。効果はあるが……入り口でこれってダメじゃないか?

 と思って、繋ぎっぱなしだった筈のウィスパーに改めての確認を投げたんだが、返事が来ない。うーん?


「――予定変更。現時点から全力で【調律領域】と【王権領域】を展開します。入り口でこれでは、どこまでどれほど異界の影響力及び悪属性の力場が広がり根付いているか分かったものではありません」

「いきなりか」

「私だっていきなりこんなゴリ押しになるとは思いませんでしたよ。ウィスパー大神の加護へのガッツリとした干渉まで含めて」


 右肩にかけるようにしていた旗槍を掴み直し、正面へと差し向けながら周囲に声をかける。先ほどの軋む音は全員に聞こえていたらしく、うちの子はもちろん一緒に突入した召喚者プレイヤー達も臨戦態勢へと移行したようだ。

 グラスファイバーを編み込んだ影響か、私が魔力を通すことで旗部分は自動で巻き取られたり広がったりするようになったらしい。しっかりと巻き付いていた旗が、ばさりと広がる。

 ほんとはなー。本がたくさんって事で、楽しみにしてたんだ。実際建物が全部本棚と一体化したような形でずらっと並んでいる光景を見て、正直わくわくしてたんだよ。本は好きだから。


「カバーさん、ここ(図書街)の地図はありますか?」

「ありますよ。しかし残念ながら、役に立つかどうかは微妙と言わざるを得ませんね。現時点で既に地形の変化が確認されています」

「私無しで差異を認識できると思います?」

「おそらくは無理でしょう。先ほどの異音からして、最低でも外部にはくまなく影響が及んでいるものと思われます」


 それがさ。まさかの、相手の領域に踏み込むようなことになるとは、思ってなかったんだよなー。

 流石に前回してやられている以上、「第一候補」が対策していないとは思えない。っつか、「第一候補」が対策した上で上回れてたらほぼ詰んでいる。連絡の途絶は本当に厄介だな。

 なお今回はルイシャンに乗ったままだが、ヘルマちゃんがルイシャンの鞍に旗を支える為の器具を追加してくれたので、安定して掲げていられる。大分ルイシャンも体がしっかりしてきたし。


「追加で来る予定の召喚者プレイヤーに警告をお願いします」

「司令部に情報の更新及び警戒を伝えておきました」


 ほんとにさー。うちの子と一緒に行けるってのもあって、ルールもいるしで結構わくわくしてたんだぞ?


「これより、領域を展開して移動を開始します! 目標、街中央の本神殿! 真っ当な召喚者プレイヤーが籠城しているとするならそこでしょう。地形の変化と確認はほどほどに、変異した街を駆け抜けます!!」

「「「応!!!」」」


 ――ふっざけんなよゲテモノピエロ。

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