第1294話 42枚目:ジャックポット

「なんというか、これは酷い」


 何の事かって? 円形雛壇の上にあふれた交換用のコインを拾ったモンスターが、そのまま流れるようにコインを飲み込んだら、パワーアップした事だよ。まさか一気に進化するとは思わなかった。

 防衛ラインを抜けた数体はそれを確認してすぐに倒されたが、まだコインの滝も続いている中で回収するのはなかなか難しい。それでも端の方から回収はしてるんだけど。

 これを見る限り、コインがある限りはモンスターの湧き速度があがりっぱなしみたいだな。流石にちょっと前線が苦しそうだ。遠距離からの支援攻撃は既に始まってるんだけど。


「しかしいつまで続くんですかね、あの滝」

「相当な数字になってましたからね……」


 とはいえ、巨大な看板から流れ落ちてくるコインの滝はまだ続いている。相当な数字になってはいたが、しかし派手を通り越してうざくなってきたな。スキップ出来ないだろうか。無理か。

 そう思っていると、ちょっと滝の流れが弱くなってきた。それに気付いて割とすぐに交換用コインの滝が完全に止まる。コインを吐き出し終わり、今はただ真っ黒な板のようになっている巨大な看板も動きを止めたようだ。

 さてこれで次の金額が表示されるのか、それとも何かステージ的なものが進むのか、と思いながら見ていると、円形の雛壇全体を埋め尽くす交換用のコインが、小さな音を立てている事に気が付いた。滝は止まった筈で、コインの回収による動きにしては平均的すぎる。


「――――総員!!」


 という事は。

 コインの山全体、ひいては雛壇が、何らかの理由で揺れてるもしくは震えてるって事で。

 つまりそれは。


「雛壇に対して全力で防御を!!!」


 何らかの……「攻撃の前兆」だろう。

 と、思って瞬間的に声を張る。同時に詠唱。【並列詠唱】と【無温詠唱】もフルで使って、出来るだけ広い範囲を、せめて今周囲にいる後方部隊ぐらいは守り切れるように、魔力の壁を立て続けに設置した。

 そこから恐らく、数秒も無く。



 バァァ――――ンン!!!



 そんな爆ぜるような音と共に、円形の雛壇に積みあがっていた交換用のコインが、四方八方へとすごい勢いで撒き散らされた。……その勢いだけで言うなら、発射されたと言うべきか。

 何重にもガラスが割れるような音が響き、私が張った防御もたぶん盛大にヒビぐらいは入っただろう。私の指の長さより分厚くした筈なんだけどな。もしかしてめり込んでるか?


「状況報告!!」

「おう防衛隊1班間一髪防御成功!」

「2班死に戻り無し!」

「3班現状維持、つーかモンスターもだいぶ吹っ飛んだんだが?」

「4班軽傷者3名、ちょっとヤバい、フォロー頼む!」


 即座に行われる安否確認と被害確認だが、その内容は軽微と言っていいものだった。そうか、どうにか防御は間に合ったんだな。

 司令部を介さない指示だったが、前線の防衛ラインを維持しようとしている召喚者プレイヤーだけでなく、コインを回収していた召喚者プレイヤーも即座に応じて下がるもしくは防御姿勢を取ってくれたようだ。何か嫌な予感ぐらいは感じていたとしても、ありがたい。

 そこから上空へと吹っ飛ばされていたらしいコインによる第二波があったが、それは司令部からの指示でしのげていた。しかしそれにしても、防衛戦の背後から全域全体攻撃とかちょっと待て運営。


「まぁモンスターもだいぶ吹き飛んだようですので、無差別ではあったんでしょうけど」

「モンスターと同じ被害が出たとしても、こちら側の方がダメージは大きいですからね……」


 しかしとんでもない落とし穴があったもんだな。

 ……これが、単なる攻撃じゃなかったのも含めて。


「で。最終的にあれは、何段になるんでしょうね」

「お雛様は7段って言われますけど、たぶんあれはゲームの種類がなくなるまでじゃないでしょうか」


 あの、コインが全方向に吹っ飛ばされた爆ぜるような音な。……円形の雛壇に、段が追加される音だったらしいんだ。

 というか、段が追加される時の勢いでコインが弾き飛ばされたというべきか。こう、下から生えてきて上の物を押しのける感じで。

 追加されたゲームは、平面の迷路を操作してボールをゴールまで運ぶ奴とか、ちょっと大掛かりなものになってるな。確かに面積は大きくなってるけど。……ジャックポットが出るたびにゲームも追加されるとすると、本当に厄介だな。

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