第1292話 42枚目:戦線変化

 その音が響いた瞬間も中継動画を見ていたが、不思議な事に動画の中には揺れが伝わっていなかったようだ。ゲームの邪魔をする気はないとでもいうのだろうか。

 コインゲームに影響が出ていないという事は、それ以外に影響があるって事でもある。と、まだ揺れの余韻が残る中で顔を上げてみると。


「……うーわ……こう来ます?」


 なんか、こう……黒いバルーン人形の巨人サイズと言ったらいいか。何かの模様みたいにたくさん白文字で「ボーナス!」と書かれた、いかにもって感じの巨人が、たぶん着地の姿勢からゆっくりと身を起こしているのが見えた。

 これはジャックポットボーナスとは違って、購入できるコインの方なんだろう。投入されたコインが一定枚数を越えたから出現したんだろうか。……が、そんなに上手くいくだろうか。なんかちょっと不安があるぞ?

 これはちょっとエルルとサーニャを呼び戻して警戒するべきか、と思っている間に、ズバン!! という感じで黒い巨人の足元の方にある「ボーナス!」の文字に、攻撃のエフェクトが叩き込まれたのが見えた。


「あっ」

「うわぁ、大惨事ですね」


 瞬間、何が起こったかって言うと……文字の所からドバッとコインがあふれ出て、そこに周囲のモンスターが殺到した。前線が慌てて動いているから、たぶんその近辺にいた召喚者プレイヤーがまとめて押しつぶされたな。

 ここまでのモンスターは、倒すと直接インベントリにコインが振り込まれ、もとい手に入っていた。インベントリに入っている分にはモンスターも反応しなかったから、その重さで動けなくなる前に撤退も出来ていたんだな。

 が。たぶん見た感じインベントリに入る方のコインではあっても、外に出していたらモンスターは反応するようだ。これは、なかなか意地悪な敵を出してきたな。


「というか、この場にあるコインの量に応じて、瞬間的にモンスターが湧いたように見えたんですけど」

「あ、ちぃ姫さんにもそう見えました? 私も、突然大量のモンスターが出現したように見えましたよ」


 私ほどではないが、ソフィーネさんも大概視力は良かった筈だ。そんなソフィーネさんにもそう見えたって事は、やっぱりあのモンスターはコインの大量放出に合わせて出現したって事だな。

 取らせる気が無いのでは? と思ったが、司令部が更新してくれたその後の情報によると、コインはモンスターが拾っていたようだ。そしてコインを拾ったモンスターを倒すと、拾った分のコインが追加で手に入っていた、との事。

 という事はつまり。


「巨人は遠距離で倒してコインの山にしておいて、出現したモンスターを各個撃破するのが一番安全そうですね」

「そうみたいですね。……目の前でコインの山が出来るのを見て、暴走する人がいなければ、ですけど」

「流石に初手で押し潰されている人を見ている以上は大丈夫だと思いますよ。それでも突っ込むなら自己責任ですし」

「それもそうですね」


 うっかり統制が取れていなかったり、暴走する人数が多かったりしたら、防衛ラインがぐちゃぐちゃになっていた可能性もあるが……司令部がちゃんと機能してるからな。

 それに一応はレイドボス(本体はまだ出てきていない)戦なので、最前線にいるのはベテラン召喚者プレイヤーの筈だ。初手で押し潰されているのを見ている上に、形は変わってもコイン自体は手に入れられると分かっていれば、まぁ無理はしないだろう。


「そもそも、ここで暴走するようならここまできちんと防衛戦は出来ていませんからね。モンスターを倒せば倒すほどコインが手に入るのは元からなんですし」

「解決したらカジノも解放されますからね。ここで稼いでおきたいって気持ちも、分からなくはないんですけど」


 稼ぎ時に稼いでおきたい、まぁ確かに分からなくはないかな。景品は色々あるみたいだし。

 ただ司令部はちゃんと誰がどれだけ稼いだかは記録している筈なので、後の報酬タイムまで待っても問題ないとは思うよ。

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