第1270話 42枚目:理由不明行動

 そういう訳でもくもくと生産作業をしていた訳だが、しばらくして思ったんだよね。エルルもサーニャも、流石にちょっと遅すぎやしないかと。

 イベントの大詰めって事で、私のログイン予定はエルルとサーニャに伝えてある。だからこの内部時間における夜中の起床ログインは分かっている筈で、それなら様子見ぐらいはくるだろう。

 もしくは私が気付いていないだけかもしれないが、その場合妙な心配をした私が動く可能性がある事を2人は知っている筈だ。だから、私が気付かないような様子見の仕方はしないだろう。


「……。とりあえず、透過条件を私と【縁】による繋がりがある竜族に限定して――[シールキューブ]!」


 なので、自己防衛をしておくことにした。この条件ならエルルとサーニャは通れるし、大神の加護特典である掲示板やメールは普通に繋がるので、とりあえず問題は無い筈だ。

 ログアウト中は空間がロックされるので、それを再現した形だな。これを異常だと受け取ってエルルかサーニャが来たら、その時に現状がどうなっているのかを聞けばいいし。

 ……と思っていたんだけど、なんか、部屋の隅にあった戸棚がガタガタ言ってるんだよね。具体的には部屋を封鎖した直後から。中で何かが暴れてるみたいな感じで。


「空間はロックされてた筈ですし、生産作業をしていたとはいえ時間はそんなに経ってませんし……そもそもそんな事をする相手って時点で大体絞り込めるんですよねぇ……」


 どうしたものか、とちょっと考えて、インベントリから大きめのジャムパンを取り出した。私がおやつに食べるやつで、丸いパンにベリージャムと生クリームが挟まれている。

 それを手に持ってガタガタ言っている戸棚に近づくと、ガタガタ音が収まっていった。完全に静かになったところで、ジャムパンを近づけつつ、そっと戸棚を開く。


「ケケー!」


 そしてそこからは、予想通り小悪魔が飛び出してきて、ジャムパンにかぶりついた。やっぱりな。神ぐらいだろ、私にこのタイミングでちょっかいをかけようとするの。

 もぐもぐとジャムパンを両手で掴んで頬張っている小悪魔の首根っこをつまみ、生産作業をしているのとは別のテーブルにのせる。そしてそのテーブルに普通の籠を置いて、そこにお菓子を山盛りにしておいた。そして生産作業に戻る。

 しばらく作業をしてから小悪魔の様子を見ると、お菓子が減ってはいるものの大人しくしているので、まぁ問題は無いだろう。


「しかし、一体何のつもりなのやら」


 一応掲示板を覗いてイベント情報を確認してみるが、“偶然にして運命”の神が動いた感じの情報はない。エルルとサーニャが動くような内容もだ。クランメンバー専用掲示板でも同様だったので、少なくとも何もしなくても関われる大きな事は起こっていないんだろう。

 とりあえず、私の部屋に小悪魔が来ていた事は書き込んでおいた。お菓子をもりもり頬張っているスクリーンショットをつけて。事前に大人しくさせられる方法が分かってて良かったな。

 もちろん私の食べ物ストックはまだまだあるし、お菓子を詰め込み直した「お菓子籠」もある。だから少なくとも、ここにいるこの小悪魔についてはいつまでだって大人しくさせておけるのだが。


「(……何かいるんだよなぁ)」


 私が部屋を【空間古代魔法】で封じて防御したからか、それともその中で小悪魔が餌付けゲフン捧げものされているからか。追加の様子見、あるいはそういうのに関係なく、眷属が単体で来ているのか。

 こう……窓にベッッタリと張り付いてる小悪魔が見えるんだよね。お菓子を食べている小悪魔をガン見している。そんなにお腹減ってるの? これだけ盛況な信仰状況の神の眷属なのに?

 眷属が勝手に動いているのはここに“偶然にして運命”の神の本殿があるからだとしても、ちょっと自由過ぎでは。とも思うし。様子見に来ているとしたら、私を完全に無視しているのもどうかと思うし。


「とりあえず、掲示板に書き込んでおいて、反応を待ちましょうか……」


 それにしても、エルルとサーニャがほんとに来ないな。もしかして竜族限定の何かが起こってたりするのか?

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