第1247話 41枚目:状況理由

 その後、特殊ログイン時間が内部時間で3時間経過したところで再びのおかわりがあり、1時間半ごとに野良ダンジョンが大量追加されることが確定となった。

 しかも司令部の発表によれば、あの謎のゲージは3回目の大量出現時点で4割ほど。つまりあと3回、ほぼ特殊ログイン時間の間中目一杯に野良ダンジョンが出現し続ける事がほぼ確定した。

 もう新年のカウントダウンとかやってる場合じゃない。年末年始としては最悪な方向で忙しい事になったが、クランメンバー専用掲示板に、こんな情報が書き込まれた。


「試練ダンジョンのクリア報酬が、普段の物より、豪華? かつ、強化アイテムの出現率が、大変高い……?」


 私は領域スキルの維持で手一杯の為、ダンジョンには挑んでいない。ただ、これだけの出力で領域スキルを展開すれば、それだけで下手な城より堅牢な防御となる。この状態で私に攻撃しようとするなら、それこそ同程度以上の儀式でも行わなければ無理だろう。

 流石にそんな動きがあれば大陸のどこにいたって分かる、という事で、普段は護衛として一緒のエルルもスタンピートへの対処に向かってくれている。だから、一応形としては参加しているし、その成果は出ていると言えるだろう。

 それでも真っ先に対処するべきはスタンピートであり、空間の歪みを削る為に試練ダンジョンに挑むことはしていない。だからノータッチだった訳だが、空間の歪みを削りに行った召喚者プレイヤーから、そんな情報が上がってきたんだそうだ。


「……本来なら、野良ダンジョンのみに挑める仕様だった感じがしますし。その報酬をそのまま試練ダンジョンに持ってきたとすれば、本来ならそこに建材がつく訳ですから、大変豪華と言える状態で間違ってません、よね」


 恐らく、放っておいても召喚者プレイヤーはこぞって野良ダンジョンに挑戦していただろう。という事は、野良ダンジョンの大量出現および大量補充は、運営の思惑通りで合っているようだ。

 という事は、おかしいのは制限時間としか思えないカウントダウンだな。3回目の大量出現の時も、謎のカウントダウンの最大値は、この特殊ログイン時間の残りと一緒だった。それが、1秒で1分も削れるのは、どう考えてもおかしいだろう。

 仕掛けた場所は分かった。本当に最悪で効率がいい。ただ問題は、どうやって、なのだが。


「そして、ここでのろいが来るわけですね……」


 どうやら私より一歩先にその可能性に思い至ったらしい司令部は、まじないを扱える住民の人達に協力を仰ぎ、大規模なのろいが無いかどうかを探知してもらったらしい。

 その結果、最前線となっている2つの大陸に向かって、それ以外の大陸のあちこちからのろいが向けられている事が判明。竜族にも事情を説明して、主に移動力及び護衛という意味で協力を仰ぎ、モンスターの群れをかき分けるようにしてのろいの解除に向かっているようだ。

 本当に最悪なのだが、新しく手に入れた手札を、最高の形で切って見せた、という事になるだろう。これでまた召喚者プレイヤー側は、のろいという手段に対して対処しなければならなくなったから。


「当然ながら、今まで使ってきた手段に対する警戒を解く訳にもいきませんし。そして、それ以上の手札を手に入れている可能性もまた、否定できなくなりましたし」


 手を変え品を変え、攻略を鈍化させ、こちらの注意力とリソースを的確に削ってくる。本当に、その手腕と頭脳だけはどうしようもなく上等だっていうのに。何故それを、そういう方向でしか使わない。

 ……趣味嗜好の違い。たったそれだけに収まる、けれど死んでも変わらない、ある意味一番どうしようもない理由だっていうのは、分かってるんだけどな!

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